古代中国の性生活は想像以上に激しい? 早大教授が語る、驚きと発見の日常史

古代中国の人々はどんな生活を送っていた?

古代中国の人々もキスをしていた

漢代の接吻

――自由恋愛の例もあったとのことですが、今で言う出会い系アプリみたいなマッチングの仕組みもあったのも驚きでした。

柿沼:国家が結婚紹介所を作っているのは、古代中国を知る上で重要なポイントですね。当時から少子化と言うのは大きな問題で、子供が多ければ兵士が増えて、納税者が増えるので、当たり前ですけど、国家の原動力は人口だと一部の思想家は考えていました。だから、国家はしきりに若い人たちに結婚しろと促していて、その結婚紹介所の着想はどうやら漢王朝以前からあるらしい。逆に未婚の男女へのプレッシャーもすごくて、女性が30歳までに結婚しなかったら税金を5倍にするような法律さえあった。

ーー結婚や恋愛は古代中国の人々にとっても切実なものだったことが伺えますね。恋愛関係でいうと、帯に掲載されたキスの像も印象的です。当時の人々も性愛に対する並みならぬ関心があったのだなと、不思議な感銘を受けました。掲載されている他の道具も、現代日本で目にしたことがある気がします。

柿沼:この像は、僕が研究を進める中でもっとも驚いたものの一つでした。当初は、古代中国の人々がキスをしていたのかどうかがわからなかったのですが、よくよく調べてみると、セックスの前にディープキスをして、相手をその気にさせていたことが判明しました。古代中国には房中術という性愛のテクニックが伝わっていて、なぜかというと、うまくセックスをすると寿命が伸びると考えられていたからです。ほかにも古代中国の人々は、ともすれば現代人以上にいろんな創意工夫をしていたようですが、さすがに下世話なのでここでお話しするのはやめておきましょう(笑)。ともあれ、こうした事実は記録に残りにくく、研究対象にはなりにくいものですが、しかしすべてをなかったかのように歴史を記述することは、ある重要な一面を書き落とすことになるというイメージが僕にはあります。

――この像は、本書がなにに重きを置いた一冊なのかを象徴していますし、人間の変わらぬ本性が現れていると感じます。

柿沼:まさにそれを意識して、この像を帯に入れてもらいました。不倫や姑問題など、結婚後の男女の問題も大昔からあったもので、現代にも通じています。当時の一般の人びとにとっては、劉備が天下を統一できなかったとか、諸葛孔明が夢半ばで死んだとかは案外どうでもよくて、それよりもおそらくは、家庭内不和のほうが大きな問題だったのではないかと思います。実際、僕自身も大学教授として中国史を扱いながらも、朝から晩まで中国史の問題や今後の日中関係について考えているわけではなく、それよりもプライベートの卑近なあれこれに頭を悩ませていることが多い(笑)。でも、それが人々の生活というものであって、そうした認識があってこそ、見えてくる社会の実相もあります。本書を一読して、こんな生き方をしていた人々もいたんだと想像を膨らませて、そこから改めて政治や経済の歴史を学ぶと、また違った歴史も見えてくるのではないでしょうか。

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