『ブランクスペース』は思春期の空白をどのように表現した? 対照的なふたりの少女の関係性

『ブランクスペース』が描く空白

 虚無感、喪失感、空しさーー。心に穴が空いてしまったような感情を表す言葉は多く存在するが、実体のない心に生まれた、存在しない空白を表現することは相当に難儀なことであろう。

 人の心に生まれた空白を巧みに表現した作品として「このマンガがすごい!2022」オンナ編の第6位に選ばれた『ブランクスペース』が挙げられる。本作のタイトルにある“空白(ブランク)”が示すもの、そして本作では目に見えない空白をどのように表現したのか。

空白を鮮明にするお互いの存在

 バドミントン部に所属し、ときに授業中にお弁当を食べる、ネコ派の女子高生「狛江ショーコ」が雨の日に出会ったのは、透明な傘をさすクラスメイト「片桐スイ」。読書家で、いつも外のベンチでお弁当を食べる、ネコ派のスイは頭のなかで想像したものを透明な状態で具現化することができる。

 スイへの好奇心を示すショーコは同じベンチで昼食を食べたり、パンを焼くため一緒に透明なトースターをつくりながらスイとの距離を縮めていく。一見すると好きな動物しか共通点の見当たらないショーコとスイであるが、物語が進むなかで明らかとなるのはふたりの抱える“孤独”だ。

 1巻ではスイが同級生から嫌がらせを受ける描写が多く登場する。男女関係なくスイを腫れ物扱いするクラスメイトの嫌がらせや陰口に対し、なにかを訴えるような表情を浮かべるスイ。ショーコも彼氏が欲しいと何度も願うが恋はなかなか実らず、彼女はフラれた哀しみを漏らす。

 そんなふたりは距離を縮めていく一方、周囲の目をよそに授業中でもお弁当を食べるようなショーコの存在は、1巻において周りの声を敏感に察知してしまうスイと対比となり、彼女の孤独を際立たせる。しかし2巻ではそんなショーコの感じる「彼氏がいない」という孤独も、彼氏と過ごすスイの存在によって強調され、ショーコの哀しみは増してしまう。

 対照的な存在によってスイとショーコの抱えた空白の輪郭はより鮮明になる。そんなふたりは心に空いた穴をお互いの存在で埋めようとしつつ、ときにすれ違いながら孤独感を募らせ、高校生としての日々を過ごしていく。

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