【漫画】もしも家族が無限に増えていったら? 読み切り『家』のシュールすぎる展開にネット騒然
ーーユーモラスなシーンの多い序盤と、シリアスでホラーにも感じる終盤のギャップに引き込まれてしまう作品でした。創作のきっかけを教えてください。
吉田博嗣(以下、吉田):ひと昔前は、進学して社会人として働くことで経済的に自立し、それぞれが家族を持つことが当たり前だったと思います。しかし、現代の日本ではそのような価値観が崩れつつあると感じています。この先「家族」や「自立」のかたちはどうなるのだろうと考え、本作を描きました。
ーー本作で表現した「家族」や「自立」とは?
吉田:かつて標準的とされてきた家族像は、女性は主婦業に専念し、男性は一家の大黒柱とならなければいけない……というものでした。しかし、時代の変化とともに人々が家庭における固定化された役割から少しずつ解放され、自由を得た世代が新たな家族を作る、という世代交代が行われてゆくなかで、「家族ってそもそも何だろう」という疑問を持つ人が増えてきたのではないかと思います。
この問いに対し、作中でのぶ子は「自分が生まれ育った血縁関係に基づく一般的な家族観」という答えを出しました。しかしのぶ子の答えでは家から出て、自立することはできませんでした。
物語の終盤でのぶ子が話した「最初はただの家庭の問題かと思っていた/だが、どうやらもっと巨大で異質な変化のはじまりに、偶然居合わせてしまっただけなのかもしれない」という台詞が、本作を象徴しています。家族のかたちを自分で決められるほど、個人が自由になったように見えても、より大きなシステムに翻弄されてしまうかもしれない。そんな漠然とした不安に包まれる様子を表現したのが本作のラストシーンです。
ーー独特な世界を描いていると感じました。影響を受けた作家さんを教えてください。
吉田:小説家だとカフカ氏の作品が好きです。また手塚治虫氏や宮崎駿氏も目標としている方々です。それぞれに特有の色があり、美術で食べているという点などを尊敬しています。
ーー本作は60ページにも及ぶ漫画作品でした。作品を描き続けるためのモチベーションを教えてください。
吉田:表現したいという欲はもちろんあります。しかし明確なモチベーションがあるというよりも、ただ漫画を描くことを作業として行っているという感覚が近いと思います。
ーー吉田先生が漫画家を目指すこととなった経緯を教えてください。
吉田:以前は現代美術系の作家を目指して、シュルレアリスムに影響を受けたような作品を作っていました。あるとき、現代美術の本場である欧米では現代美術作家の社会的地位が高く、有名作家のパーティーにお金持ちの方々が集まるらしいのですが、日本はどうだろうと考えたんです。すると『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生のホームパーティーには著名人が集まっていることに気づきました。
日本で表現活動をするのなら、あえて現代美術にこだわる必要はないのではないか、と思い、漫画家という選択肢について考えるようになりました。現在は商業的な漫画家として活動することを目指しています。