直木賞候補・一穂ミチが語る、『スモールワールズ』に込めた想い 「私の知らない巡りをしている星が無数にあって、重なって離れていく」

直木賞候補・一穂ミチが語る、作品への想い

それぞれが唯一の宇宙であり世界

ーー5作目の「愛は適量」になると、またガラッと話が変わります。中年の疲れた教師が主人公です。「文蔵」のインタビューで言ってましたが、「小説現代」に発表したとき、55歳より若く見えたという感想をいただいたので、本にしたときさらに疲れさせたそうですね。

一穂:ちょっと、くたびれ感というのを足してみました。結果は(成功したか)分からないですけど。今の50代は、いろいろいるので。

ーー私も50代ですけど、もう引き返せないところに来ているという感じはあります。そういう主人公のところに、別れた奥さんに引き取られていた子供が、成人になってやってくる。そこから親子の物語になるのですが、やっぱりストーリーは一筋縄ではいかない。でも本書の中では、一番ストレートな話だと思いました。

一穂:そうかもしれないですね。

ーー自分が主人公と年が近いせいかもしれませんが、子供の方よりも主人公の方に感情移入してしまいました。多分、読む人の年代によって、どっちに肩入れするか違ってくると思います。

一穂:読む人によって、ダメな親爺だと思っていただいてもいいし、お父さんの気持ちになって、そんなこといわれてもさーっていう、やりきれない気持ちになってもいい。どの年代の人にも読んでいただけるように、こういう話も入れました。

ーーラストの「式日」ですが、これも技巧的な話ですね。(登場人物が)先輩と後輩で、名前が出てこない。

一穂:自分としては、ハンディカメラで撮ったロードムービーみたいな、淡々としたイメージですね。主語もなく。

ーー各話が、うっすらと繋がっていますよね。これは最初から意識していたのですか。

一穂:そうですね、緩く繋がりを持たせて。言葉を交わしたりするわけではないんだけどっていうくらいの距離感で。

ーーそういう趣向が分かったとき、本のタイトルの『スモールワールズ』を見て、それぞれの人に小さい世界があって、微妙に重なり合うことで世界ができている。だから“ワールド”でなく“ワールズ”なのかなと。

一穂:まさにそんな感じですね。袖振り合うも他生の縁じゃないですか。星のように軌道を描くんだとしたら、一瞬、重なってまた離れていく。私の知らない巡りをしている星が無数にあって、重なって離れていく。それぞれが唯一の宇宙であり世界であるという。

登場人物と出会うのは「生身の人間と知り合うのと一緒」

ーーちょっと本から離れますが、小説は一気に書いてしまいますか?

一穂:半分までは、すごく時間がかかるイメージですね。書き始めはプロットを詰めないこともあって、けっこう手探りなんです。登場人物がどういう人なのか、深くは知らない状態で書いているうちに、だんだんひととなりとかが分かってくる感じが、自分の中にある。で、半分くらい過ぎるとなんとなく掴めてくるので、がぜん書きやすくなる。

ーー途中までは、この人はどういう人だろうと思いながら。

一穂:生身の人間と知り合うのと一緒で、ピーマン食べられないんだとか、変な柄の靴下履いているな(笑)とか、ちょっとした発見を積み重ねていくと、その人のことがなんとなく分かるじゃないですか。これが好きそうとか、こんなこと言いそうとか、なんとなく把握できてからは、一気に書けたりしますね。

ーー把握できると、この人がこういう状況だったら、こういう行動をすると。

一穂:キャラが立ってくると、私がこうしようああしようと思わなくても、勝手に動いてくれることがある。ABの選択肢があって、最初、Aの方にするんだろうなと思っていたらBの方に行ったりする。そうすると、あっ、そうなのねと。頭の中だけで考えていたことよりも、書きながら出てきたものを大切にしたい。その方が私にとっては、ストンと(腑に)落ちることなんだろうから。

ーー今回の収録作品は、全部そんな感じで作っていったのでしょうか。

一穂:最初から最後まで、この流れでこのオチでと決まっていたのは、「ピクニック」くらいでしょうか。「花うた」も大体の流れは決まってたんですけど、実際に手紙でどういう話をするのかは、あまり考えていない。辞書を引く話も、パズルの話も書きながらポッと出てきた。

ーーそうなんですか! 辞書はともかく、パズルは最初から考えていたと思いました。

一穂:書いているときは作中の人の心の流れや動きを必死で追いかける感じになっていくので、自分でこうしようああしようというのは入ってこないですね。

ーー最後になりますが、よろしかったら今後の予定をお教えください。

一穂:講談社さんで恋愛小説を出していただこうかなという感じで、書き進めています。後は書けるものなら、なんでも書きたいですけど、アイデアが潤沢なタイプではないので。

ーーでも本書は、ショーケースみたいなイメージがありますよね。ああいうのも書けます、こういうのも書けますという。

一穂:ショーケースというより、露天商に近いですね(笑)。また何かお仕事に繋がったらという気持ちもあって、いろんなのを書きました。

■書誌情報
『スモールワールズ』
著者:一穂ミチ
出版社:講談社
価格:1,650円(税込)



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