ティラノサウルスは羽毛でモフモフだった? 『ダーウィンが来た!』敏腕ディレクターが語る、”古生物のアップデート” 

ティラノサウルスは羽毛でモフモフだった? 『ダーウィンが来た!』敏腕ディレクターが語る、”古生物のアップデート” 

 日経ナショナル ジオグラフィック社から発行された『ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代〜中生代・三畳紀)』は、2021年4月21日の発売以来、幅広い年齢層に地球生命の楽しみと驚きを与えている。

 著者はNHKの自然科学系番組「ダーウィンが来た!」のディレクター、植田和貴氏。植田氏は2006年のNHKスペシャル「恐竜vsほ乳類」以来、15年にわたり自然科学系の、特に恐竜や古生物の分野を中心に番組制作を手がけてきた。そのなかで、これまでに取り上げてきた内容を時代順に並べ、生命の進化を俯瞰的に楽しめるよう編集された本書。書籍という形態ならでは、テレビでは伝えきれない部分を補完する役目もあり、いわば「ダーウィンが来た!」を視聴するにあたってのテキストの役割も担っている。

 前編は本書のポイントを紹介したが、後編は著者である植田氏へのインタビューを掲載。本書を作ることになった経緯や古生物への思いなどを訊いた。前回記事とあわせてお読みいただけると幸いである。

【前編】古生物のビジュアル盛りだくさん! 『ダーウィンが来た!』敏腕ディレクターが迫る”生命大進化の系譜”

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 なお本書(第1集)の舞台となっているのは、46億年前に地球が誕生以来、最初の生命や多細胞生物が誕生する先カンブリア時代、多用な節足動物が登場する5億4000万年前以降のカンブリア紀を含む古生代、そして恐竜が登場する2億5000万年前の三畳紀である(三畳紀以降を中生代と呼ぶ)。

面白い取材内容を書籍として「復活」させる

ーーこの本を書こうと思ったきっかけについて教えてください。

植田和貴(以下、植田):これまでに、15年ほど古生物に関連する番組を作ってきました。取材をしているといろいろな話が出てきますが、テレビでは基本、それぞれの番組で「切り口」が求められ、切り口から離れた内容だと紹介できなかったりもします。当然ですが番組は43分、73分など、それぞれ枠が決まっています。その限られた時間の中で、アウトプットできる情報量が実は取材した内容に対して思ったよりも少ないんです。

 加えてテレビでは、たくさんの情報を単純に羅列すると伝わりづらくなるというのがセオリーとしてあり、その結果、番組内には入りきらなかった情報が毎回少なからず生じていました。そうした情報たちを書籍というカタチで復活させたい、私の中だけで情報を埋没させてしまうのはもったいないと思い、本書は実現しました。

ーーなるほど。今回実際に書籍としてまとめてどう思いましたか?

植田和貴

 生命進化の話は10年前に放送されたものであっても、一部例外はありますが、基本的には内容はそんなに古くなりません。これまでに制作したそれぞれの切り口の番組内容を時系列に並べて、さらにこぼれた情報で補完して見ると、ごちゃ混ぜとも言えるけど、むしろ生命進化の本質に近い内容になると思いました。なぜなら進化を駆動する要素は様々だからです。でも実際に書き始めてからは、10年以上前のことなどを思い出すのに苦労しましたね。過去の取材データや記録をきちんと保存しておいて良かったなと(笑)。

情報は日々アップデートされていく 

ーー古生物を15年間取材してきた当時からアップデートされた内容などはありますか?

植田:NHKスペシャル「生命大躍進」の放送時(2015年)には、カンブリア紀の巨大節足動物・アノマロカリスは、柔らかいものしか食べることができなかったという話でした。そこでCGではピカイアというナメクジウオのような柔らかい生き物を補食している様子を表現しました。

 ですが、2〜3年前に別件の取材でオーストラリアの博物館に行ったとき、アノマロカリスのものと考えられる糞の化石があって、その中にバラバラになった三葉虫の化石が含まれていたんです。

 こうした情報はネット検索すれば出てくるというものではないので、足で稼ぐしかないんですが、この糞化石との出会いで、ついにアノマロカリスが固い生物も狩っていたということを知ることができました。

 これは今年4月の「ダーウィンが来た!」で放送していますし、本書でもアップデートした情報として取り上げています。

 この15年のなかで「変わった」ことで言いますと、一番は、ティラノサウルスでしょう。初めて取材したのは2005年でしたが、その時点ですでにティラノサウルスの仲間に羽毛が生えていたことは分かっていました。しかしティラノサウルス自体は、あまりに巨大であるため羽毛があると暑いので、現在のゾウと同じように毛がなかった、という説が有力でした。そのため、子供のティラノサウルスは羽毛を生やしていても、大人になると羽毛が抜け、ウロコだったという話でした。そうしたこともあり、2006年に制作した「恐竜vsほ乳類」の頃は毛無しで大人を表現していたんです。ところが、その後、10mにも達するティラノサウルス類の巨大種からも羽毛の痕跡が見つかったことで、「大人のティラノサウルスさえも羽毛を生やしてよい」という流れが出てきたんです。そのため最近作った番組では大人のティラノサウルスもモフモフの羽毛を生やしているんです。

 その後も羽毛を生やした恐竜は次々見つかっていて、当初の取材より、“羽毛を生やしていた恐竜の範囲”がどんどん広がってきています。たとえば本書にも出てくる最古の恐竜、コエロフィシスは2006年当時に再現した姿なのでウロコで表現していますが、いまCGでその姿を再現するなら、羽毛の生えたコエロフィシスにするでしょう。

ーー専門家同士の仮説の違いで興味深いことはありますか?

植田:自分は「ダーウィンが来た!」などの自然番組でハチドリやパフィンなど今生きている鳥の番組も作っているので、「恐竜のなかからどうやって鳥が生まれたのか」という説について興味を持っていますが、2006年に「恐竜vsほ乳類」を制作した時に中国の有名な二人の先生からそれぞれ面白い説を聞きました。

 A先生は、樹上から滑空した説を唱えています。木に登る恐竜がいて、高い位置から幕を広げてモモンガのように滑空したというものです。実際にそのような恐竜は見つかっているんですが、そこから鳥に進化していったという説ですね。

 一方B先生は、獲物を追いかけながら地上を駆けているとき、跳ねたりする内にもとは小さかった翼がだんだん大きくなり、飛べるようになったという説を唱えています。どちらもあり得そうで面白い考えですが、こうした説の真偽は、ある意味で水掛け論というか、絶対的な答えが分からない。どちらが正しくて間違っているか、究極的には分からないのです。

 ティラノサウルスの“食事”もそうで、集団で狩りをするのか、個別に狩りをするのか、狩りをせずに死んだ獲物だけを食べるのかなど、諸説あり、これについてもタイムマシーンがない限り、究極的な答えはわかりません。

 でも、こうした “水掛け論的な領域”の話こそが、生命進化の研究の面白いところだと思っています。たとえば災害や医療などをテーマにした番組は、研究者や専門家に取材した内容を正確に伝えることが大切で、あやふやな領域は紹介できませんが、生命の進化に関する番組では、こうした“水掛け論な領域”にも場合によっては踏み込んで紹介することができる面白さがあります。そこにこそロマンがありますし、しかも私はジャングルなど様々な場所に出かけ、今、生きている動物を取材する動物ディレクターでもあるので、そうした「いま生きている動物」の生態を取材して得た独自の知見を監修者の先生と議論した上で、番組に反映させる余地もあるからです。

 ただ、もちろん、こうした“水掛け論的な領域”については、事前に学会などで数多くの研究者を取材して、その時点の主流的な考えを知っておくことが重要なのは大前提です。日々情報がアップデートされるなかで、第一線にいる研究者が「いまはどう考えているのか」「どの説がいまは主流なのか」を知るのは、とても重要なことだと思っています。

ーーCGで作る動物たちの動きなどはどのように決めていますか?

植田:専門家の知見に従いながら、現在の動物の動きを手がかりに予想します。ですが、専門家による研究成果や分かっていることだけでCGを作ろうとすると、ものすごく“無機質”なものになってしまうとも思っています。極端に言えば「歩いてます」「植物を食べてます」という感じくらいしか表現が難しい(笑)。でもこれでは“リアル”じゃない。なぜなら僕たちは、これまでに多くの「いまの動物」を実際に観察、取材してきており、実際の動物を観察していると、もっともっといろいろな動きをしていることがわかるからです。あくびをしたり、転んだり、つまずいたり、勘違いしたり、肉にたるみがあったりしますし、ロボットのように規則正しく動くことはありません。動物を実際に撮影して感動するのは、図鑑に載っていないシーンだったりするんです。こうしたことは古生物が専門の先生方にはない独自の経験値だと思っていますし、だからこそ単純に研究成果を伝えるのではなく、この独自の経験値、視点でもって肉付けし、「本質的にリアルな古生物」を模索しています。

 また、信頼できる専門家への取材の際に得た「論文ではここまで書いたけど、本当はここまでのことを考えている」という部分を拾い、なるべく映像化するようにもしています。

 ただ、これらはどれも、決して「やりたい放題」ではありません。きちんと監修者の先生と相談し、バランスを意識して制作に当たっています。

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