浅野いにお『デデデデ』の突き抜けた面白さ ふたつの「大きなウソ」を組み合わせた手腕に迫る

浅野いにお『デデデデ』の突き抜けた面白さ

 浅野いにおの『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』が、第66回(2020年度)小学館漫画賞の一般向け部門を受賞した。意外にも浅野はこれまでこうした賞とは無縁だったらしいが、そのことも含め(もちろん今回の受賞は喜ばしいことではあるが)、評価されるのが遅すぎる、といいたいくらいだ。それくらい、この作品は連載開始時から突き抜けて面白いものがあった。

「『世界の終わり』を前にした名もなき人々の普通の生活」

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(1)』

 浅野いにおの『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、2014年から『ビッグコミックスピリッツ』にて連載されているSF漫画である。主人公は、中川凰蘭(愛称は“おんたん”)と、小山門出というふたりの少女。物語は、正体不明の巨大なUFOが空に浮かんでいる東京を舞台に、彼女たちの日常生活の様子がどこかコミカルなタッチで(時にクールに)綴られていく。

 ちなみにこうした、「いきなり巨大なUFOが都会の上空に現れるところから始まるSF」は、これまでにも、『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)や『インデペンデンス・デイ』(ローランド・エメリッヒ)といった名作・ヒット作があるわけだが(漫画では、藤子・F・不二雄に『いけにえ』という短編がある)、浅野がこの『デデデデ』の序盤で描いたのは、そうした一連の過去作とは少々異なる切り口の、「『世界の終わり』を前にした名もなき人々の普通の生活」だった。これはなかなかするどい視点だともいえ、たしかに、戦争や自然災害、原発事故、あるいはパンデミックのような「得体の知れない恐ろしい何か」が世界を滅ぼそうとしても、それに立ち向かう選ばれた人間ではない、いわば“その他大勢”の人々の、(特に何か大きな事件が起きるわけでもない)日々の生活は続くのだ。

 そう、この作品の序盤で描かれているのは、そうした「世界の終わり」を前にした少女たちの愛すべきリアルな日常であり、私などはその様子をいつまでも見て(読んで)いたいと思っていたものだが、メジャー誌の連載漫画というものは、そういうことばかりを描いているわけにはいかないのだろう。

※以下、ネタバレ注意

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