九龍ジョーが語る、伝統芸能の“革新性” 「そもそも歌舞伎は、他ジャンルの要素を貪欲に取り入れてきた」

九龍ジョーが語る、伝統芸能の“革新性”

 「革命」と「伝統芸能」。この相反するように思える2つの言葉を軽やかにつなぐ書籍が登場した。

 九龍ジョー氏の最新書籍『伝統芸能の革命児たち』(文藝春秋)は、歌舞伎、狂言、落語、講談など様々な日本の古典芸能の今を多面的に映し出している。本書には、日本の伝統を更新しようとする若い担い手の活気ある姿が書かれている。

 2020年は、新型コロナウイルスによって、多くの業界が未曾有の危機にさらされ、否応なく変化の波に飲み込まれたが、伝統芸能は何百年もの間数多くの苦難を乗り越え、今も脈々と受け継がれている。伝統芸能はなぜ伝統となり得たのか、その本質を九龍氏に聞いた。

YouTubeやサブスクと寄席芸能の相性は良い


――「はじめに」で書かれている「伝統芸能における『革命』とは、すでに『伝統芸能』の四文字に含まれてもいる」という一文が素晴らしいです。これは逆説のように聞こえますが、よく考えてみると正論ですね。

九龍:実は当たり前のことですよね。生活様式や様々なものが時代とともに変わっていくなかで、何百年も続くには変わらないと生き残れないですから。

――本書は、そんな変化し続ける伝統芸能の世界で活躍している若い方を中心に取り上げていますが、今起きている変化は、例えば昭和の頃と比べて違う点はあるのでしょうか。

九龍:一つは江戸時代との距離感です。歌舞伎などの伝統芸能の多くは江戸に生まれたものが多いんですが、それが伝統性を帯びてくるのは大正、昭和初期で、いま名人の象徴のように語られる方たちも、その時期に活躍された人が多い。すると現代は、その名人たちから直接教わったり、触れたことのある世代の方々がお亡くなりになっていく時期でもあるんです。つまり、伝統を支える芸の裏付けが危うくなってきている。そういう局面でもあるんですね。

――今まで、名人を直接知る人たちがいて伝統が担保されていたものが、これからは芸そのものが大きく問われるようになっているということでしょうか。

九龍:そうですね。その意味で、各ジャンルの芸能者たちが積極的に伝統芸能の未来を考えなければならない時期とも言えます。

九龍ジョー『伝統芸能の革命児たち』(文藝春秋)

――本書で一番大きく取り上げられているのは講談師の神田伯山さんです。この方はこれまでの講談師とどう違いますか。

九龍:伝統芸能は受け継がれた型を守ることも大事ですが、本来は目の前のお客さんを楽しませることが大切です。伯山さんは、「講談は宝の山だ」とよく言っています。こんなにも面白いものなんだから、現代人にも伝わるはずだと考えていて、今のお客さんと向き合っているんです。ラジオやバラエティにも積極的に出演していますが、それらもすべて、講談の面白さを伝えるためだと公言もしています。

――伯山さんのYouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」も講談の普及活動の一環というわけですね。この番組はYouTubeチャンネルとしてはじめてギャラクシー賞を受賞しました。

九龍:YouTubeは伝統芸能のアーカイブを残す場所として、案外悪くないと思うんです。実際、落語をはじめとする寄席演芸なんかは違法動画もたくさんアップされています。それだけ需要があるということでしょう。そこで公式なアカウントを持つことは、知的財産ビジネスとしても意味がある。

 あとは、伯山さんの言葉を借りれば、ユートピアのような空間が伝統芸能にはたくさんあるんです。例えば、「神田伯山ティービィー」にアップした寄席の楽屋風景がそうです。以前から、伯山さんはベテランの寄席芸人には面白い方がたくさんいらっしゃって、テレビとはまた違った魅力があるので、これを紹介したいということを言っていました。ただ、外部ディレクターがカメラを回すとなると、どうしてもヨソ行きの顔になってしまう。そこで番頭と呼ばれる楽屋を仕切る落語家さんにカメラを託して、楽屋のナマの姿を撮ってもらった。これが普段、寄席演芸に興味のない層にも届いたんです。

――最近だとApple MusicやSpotifyなどで落語に触れる人もいますよね。

九龍:そうですね。かつてはCDショップに行けば古今亭志ん生や桂文楽はじめ昭和の名人たちのCDがずらっと並んでいました。それがサブスクリプションサービスだと、いま活躍している落語家が中心なんですよね。それこそ二ツ目の若手の音源も多い。名人たちの膨大な音源もきちんとカタログ化されてストリーミングされるといいなと思いつつ、今の若い人が高座に足を運ぶきっかけとしては、歓迎すべき状況だと感じます。

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