シークエンスはやともが語る、ポップな心霊論「できれば心霊のことで笑ってほしい」
小学校3年生のとき、家のベランダから殺人現場を目撃するというトラウマ体験をきっかけに、幽霊や生霊が見えるようになったというピン芸人・シークエンスはやとも。2016年、週刊誌『女性自身』(光文社)にてコラム「ポップな心霊論」の連載をスタートし、『ホンマでっか!?TV』『ダウンタウンなう』などのテレビ番組で数々の有名芸能人たちを霊視して一躍人気芸人に。これまでの心霊のイメージを覆す、明るくポップな語り口は多くの女性の心を掴み、今月、傑作ショート怪談93話を収録した『ヤバい生き霊』(光文社)を上梓した。
はやともの手にかかると、なぜ心霊は笑える話になるのか? そのマジックを解き明かすべく、はやともに執筆秘話を聞いた。(尾崎ムギ子)
霊感は父親譲り
――心霊話を人前で話そうと思ったきっかけは?
はやとも:NSC(吉本総合芸能学院)で桝本壮志さんという有名な作家さんが講師をしてくださっているんですけど、「夏だし怪談持ってるやつ、おる?」と言われて手を挙げたのがきっかけです。その話がウケて、「俺の授業で毎回、怖い話を1個して」ということになり、そこから島田秀平さんだったり、怖い体験をしている人たちのラジオを聴いて研究して、アウトプットするようになったんです。
もうひとつのきっかけは、デビュー後、鳴かず飛ばずだったとき、あるライブのエンディングで、同期の元ハピネスポットの松田さんがMCのダイタクさんに「こいつ、幽霊が見えるんですよ」と言ったんですよ。それで心霊話を話したらダイタクさんがすごく興味を持ってくれて、「絶対、金にしたほうがいいよ」と言っていただき、ダイタクの大さんが知り合いの編集者さんを紹介してくれて、『女性自身』で連載させていただくことになりました。そこからテレビのお仕事が来るようになりました。
――『女性自身』の連載が決まったときは、まだ世間に心霊芸人として認知される前ですよね?
はやとも:当時、Twitterのフォロワーは500人くらいだったので、週刊誌でいきなり連載することになったのは驚きでした。『女性自身』の読者層が、いちばんそういうのに興味があるのかもしれません。『ホンマでっか!? TV』に出ている武田先生が、「オカルトがなくなったとき学問は消える」と仰っていたんですけれど、それはつまり、わからないことがあるからこそ様々な研究が進むという話で、未知のものに対する興味が強い人ほど、オカルトに関心があるのかもしれません。
――霊感があることは、ご家族には話していたんですか?
はやとも:親父も霊感があるので、僕と同じものを見ているんですけど、お袋が怖がりなので、あまり家庭内ではそういう話はしなかったですね。小さいときはまだ景気がよかったですし。世の中が心霊とか幽霊のほうにいく時期って、景気が悪いんですよ。たぶん来年は最大の不景気が来るはずなので、オカルトフィーバーになると思います。今年もすでにその兆候はありますよね。『恐い間取り』(松原タニシ/二見書房)とか僕の本が、書店で平積みされてますから。みんな陰鬱な気持ちになっているんだろうなあと思います。
――「はじめに」でもありましたが、殺人事件を目撃したことがきっかけで見えるようになったんですよね?
はやとも:親父曰く、僕は事件の前から見えていたらしいです。幽霊の外見はほぼ普通の人なので、見えていても幽霊と思わないんですよ。例えば、両親は見えない、子どもだけ見えるという場合だと、「今日だれだれ君と遊んでくる」「そんな子いないわよ!」となるけれど、うちは親父も見えているので、「ああ、行っといで」みたいな(笑)。殺人事件は幽霊を意識するきっかけであって、ずっと見えていたらしいです。
――すごい話ですね(笑)。本書では「幽霊を“見えるようにする、見えないようにする”のスイッチを切り替えられる」というお話がありましたが、どのように切り替えるのでしょうか?
はやとも:無限大ホールという劇場の楽屋で、前回とは違うタイミングでダイタクの大さんが「こいつ幽霊見えるんですよー!」って、全先輩を集めたことがあるんです。そこで、何十人斬りっていうのをやったら、あまりにも幽霊を見過ぎて、どれが先輩でどれがスタッフさんで、どれが死んでる人か、よくわからなくなって。「もうダメだあ」と思って、ユニクロで伊達眼鏡を買ってきて、「かけてるときは見えている、かけていないときは見えていない」って自分に言い聞かせたんです。1カ月くらいずっとその眼鏡を持ち歩いていたら、オン/オフを切り替えられるようになりました。いまは眼鏡なしでも切り替えられます。オフでいる時間のほうが圧倒的に多くなりましたね。そのほうが快適なので(笑)。
――飛行機とか、大人数のところは大変そうですね。
はやとも:大人数のところもしんどいですし、逆に少人数のところで大人数が見えるのもキツいです。
――お客さん20人のライブなのに、満席に見えた話も収録されていましたね。
はやとも:だれも笑ってないですからね。みんな険しい顔で見ていて。死んでいてもいいから、せめて笑ってほしかったです(笑)。
――生霊と死んだ人の違いを見分けるのも、なかなか難しいそうで。
はやとも:光の反射がなくて、写真をパッと張り付けたような感じになるので難しいですね。それこそ最初は車の運転とかも怖かったです。でも慣れました。いまはオフにすればいいだけなので楽ですけれど、見えるからこそ嫌だっていうときは、まあまあありました。
――車の運転は大変ですね……。
はやとも:親父はタクシーの運転手なのですが、「タクシー運転手は見えたほうが得だ」と言ってました。もし幽霊を乗せて目的地まで着いていなくなると、全部自腹になるからって(笑)。タクシー運転手って、稀有な職業なんですよ。1日かけて、知らない第三者を探し続ける職業って、たぶん他にないですよね? 幽霊はひとりぼっちでずっと寂しいので、見つけてほしい。だからタクシー運転手は心霊体験が多い。探している側と見つけてほしい側と、「Win-Win」な関係と言えばそうなんですけど(笑)。
人気の度合いと生霊の数は比例する
――人気の度合いと生霊の数は比例したりするんですか?
はやとも:比例しますし、それをどう受け止めているかも比例します。ついこの間、収録でHIKAKINさんにお会いしたんですよ。真面目で一生懸命やっていて素敵な方だったんですけど、YouTuberの方が大変なのは、視聴者の欺瞞に満ちた愛がくっついている。HIKAKINさんご本人もそれに縛られているから、めちゃくちゃストレスまみれだなというのが見えました。ファンの方のHIKAKINさんへの理想像が強すぎて、ちょっと違うことをやっただけで「あんな人だとは思わなかった」「裏切られた」とHIKAKINさんのことを勝手に恨んでいる人もぼわーんといた。これは大変だなと思いました。
――テレビ番組でダウンタウンさんを視ていましたが、やはり生霊も相当多かったのでしょうか。
はやとも:ダウンタウンさんは桁違いでしたね。やっぱり複数人からガチガチに恨まれてもいたんですけど(笑)。でも、ダウンタウンさんや千鳥さんを視て、マイナススタートの方のほうが強いなと思いました。「きっとこの人、素敵な人なんだろうな」というところからスタートすると、減点方式ですが、怖いイメージの方々は逆に普通にしていても「いい人」ってなりますから。実際には、どちらのコンビの方々も優しいですけど。
――他にも、悪い生霊を追い払うには「ルーティンを取り入れたほうがいい」というお話も興味深かったです。
はやとも:体調不良で相談に来た女子大生に、「たぶんストーカーがいるから気をつけたほうがいいよ。もし気になったら、お母さんや彼氏を家に呼んで、盗聴器がないか探知機で調べたほうがいいよ」って言ったら、実際に家に仕掛けてあったんです。でも、だれがつけたのかわからなかったらしいんですね。どうしたらいいですかと聞かれたので、「悪い生霊を追い払うには、その人のその家に対する執着心とか、『入りたい』という気持ちをなくせばいいと思う」と言ったんです。
例えば盛り塩というのは、外から悪い物が入らないようにするバリアなんですけど、別に盛り塩じゃなくてもいいんですよね。個人的に「これがあると守られている気がする」という物を置いて家に入ると、自分の後ろにあるやつを中に連れてこないで済むようになるんです。なので、「ちょっと時間はかかるけれど、旅行のお土産とかなんでも置いてみれば?」とアドバイスしたんです。
自分の中で「これがあるから安心だ」っていうルーティンがあると、結構いいと思います。例えば数珠を身につける方もいますが、あれはなんで着けているかというと、異変が起きたのがわかりやすいんです。数珠がバチャーンと弾けると、「俺、なんかやべーんじゃねーか」と思いますが、時計の針がちょっとズレても、「ああ」って直しちゃうんですよ。僕は「数珠でもロレックスでもどっちでもいいですよ」と言っているんですけど、安心できるなにかを着けておいたほうがいいかなと。そういう意味ではロレックスと数珠、どっちも着けてる浜田さんは最強ですよ(笑)。