伊東歌詞太郎が語る、“無敵のアホ”の生き様 「僕の人生は3割が成功、4割が失敗、3割が致命傷(笑)」
ファンとの関係性
——半生を振り返って、それを文章にしたことで、歌詞太郎さん自身にも影響があったのでは?
伊東:うん、それはすごくありました。いちばんは自分を知れたこと。つまり「アタマが悪い」ということですね(笑)。「歌詞太郎さんって、どんな人ですか?」って聞かれると、「考えないで行動する人」とか「戦略を持たない人」なんて答えてたんですけど、それってちょっとカッコ良さを残そうとしてるじゃないですか。そうじゃなくて、「自分はバカなんだな」ということがはっきりした。それは明らかに良いことですね。
——ファンに対してはどうですか? 歌詞太郎さんのファンがこの本を読むと、音楽の背景をリアルに想像して「こういう人生を歩んできた人が、ああいう曲を書いて歌ってるんだな」という気持ちになると思うのですが。
伊東:そうですね。ライブで「自分には価値がない」というMCをしたとき、後から「それって、私たちの気持ちを否定していることになりますよ」と言われたことがあって。その気持ちもわかったんですよね。ファンの方に「歌詞太郎さん、好きです」と言われたら、「僕じゃなくて、音楽が好きってことですよね?」って聞き返したりしてたので。その後、自分も変わろうとして、「好きです」と言われたら「ありがとうございます」と返せるようになったんです。音楽を介して、自分を好きでいてくれるんだなとわかったというか。
——なるほど。
伊東:僕は人生の大半、起きている時間のほとんどを音楽に費やしているんですよ。本を読んだり、ごはんを食べたり、ネコと遊んでいるときも、常に音楽のことを考えてる。音楽を通して自分が出ているのは間違いないし、「音楽をやっていなければ、こんなに好かれる人間ではない」という根本も変わってないんですよね。この本を読んでもらえれば、そのことがわかってもらえるんじゃないかなと。ファンの皆さんに対しては、「あなたたちの気持ちはわかったから、僕の気持ちもわかって」という感じかな(笑)。
——本のタイトル「僕たちに似合う世界」についても聞かせてください。“僕”ではなく“僕たち”にしたのはどうしてですか?
伊東:“僕に似合う世界”はずっと探し続けてるんですけど、何年か前から“探す”と“作る”を両方やろうと思うようになって。そのなかで「僕が作る音楽を好きな人は、どんな人なんだろう?」と考えるようになったんですよ。いま応援してくれる人、これから先、僕の音楽に興味を持ってくれる人もそうですけど、たぶん、器用に立ち回れる人は少ない気がするんです。
——歌詞太郎さん自身がそうですからね。ファンはアーティストの鏡という言葉もあるし。
伊東:そうですよね。つまり“僕が似合う世界”というのは、“あなたが似合う世界”でもあるのかなと。なのでタイトルは「僕たちに似合う世界」にしました。
——この本自体が、リスナーと歌詞太郎さんの居場所になるのかも。小説「家庭教室」エッセイ「僕たちに似合う世界」に続く作品の構想はあるんですか?
伊東:常にあります。新しい小説のプロットもあるんですけど、この前、パソコンがクラッシュしちゃって3割くらいしか残ってなんですよ。残りの7割はこれから思い出します(笑)。
■書籍情報
『僕たちに似合う世界』
著者:伊東歌詞太郎
価格:本体1,200円+税
出版社:KADOKAWA
公式サイト