飲食店経営はデスマッチよりも過酷? 「ミスターデンジャー」松永光弘が経験した生き地獄

飲食経営はデスマッチよりも過酷?

まだまだ襲いかかる困難

 牛肉の価格が高騰し、値上げせざるを得なかった時には、松永が牛に踏まれたイラストに「牛肉高騰の音を上げて…恐縮ながら値を上げました」というダジャレポスターで告知。このような緊急事態にはプライドを捨て、自虐ネタもいとわない姿勢が何よりも大事と説く。

「人間は誰でも「バカだな」と言われることに抵抗を感じるものだ。でもセカンドキャリアを成功させようと思ったら、自分からバカにならなければ、まずうまくいかないと思う。」(P172)

 これは、プロレス界の現人神、アントニオ猪木の名言「バカになれ!」とまったく同じ思想である。こうした姿勢こそが、コロナ渦で追い詰められている飲食業界が生き残るための方法を示唆してくれるのだ。

 そもそも、プロレス界において「デスマッチ」というのは、持たざるものの手段だった。いまでこそ高度化していて、ただ凶器で殴り合ってるだけでは成り立たなくなっているのだが、デスマッチファン側も、ただ血が見たいのではなく、その試合形式に込められた創意工夫や、そこに挑む「人間力」にカネを払っているのである。

 コロナ以後の飲食店も、目指すところは同じだ。もはや、ただ安いとか、美味しいということでは勝負できない。多少高くついても、店がそのメニューに対して費やした努力やアイディア、客に喜んでもらおうという心意気に対して対価を払うという意識になっていくのではないだろうか。

 松永は、狂牛病騒ぎを乗り越えた時に「またこんなことが起きたら、もう耐えることはないかもしれない」と考えており、今回のコロナ騒動が長期化しそうな局面で「もう『ミスターデンジャー』を畳もう」と決意したそうだ。

 しかし、その渦中に考えを改め、最終的には「70歳までステーキを焼いていたい!」と宣言している。その心境の変化と、コロナを乗り越えるに至ったノウハウについては、ぜひ本書を参照にしてほしい。

 20年以上、何度も地獄の苦しみを味わいながらもステーキを焼き続ける松永の姿は、火炙りにされても、ロープ越しに首を吊られても無表情でフラフラと立ち上がり、有刺鉄線バットを使ってサソリ固めを仕掛け続けた、あの頃のデスマッチレスラー・マツナガの底知れぬ姿と重なる。

 前言撤回。読み終わってみると、本書はいわゆる「プロレス本」でした。

■出洲待央
ライター、編集者。雑誌、書籍、WEBなど媒体を問わず、様々な記事制作やインタビューなどに関わる。

■書籍情報
『デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実ーオープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わった ー』
松永光弘 著
価格: 本体1,300 円+税
出版社:ワニブックス
公式サイト

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