海賊版漫画のダウンロード、違法の線引きは? 弁護士の見解を聞く
インターネット上の海賊版対策等の強化を柱とする著作権法改正案が6月5日に成立し、来年1月から施行されることとなった。違法にアップロードされたものと知りながら映像・音楽をダウンロードすることは従来から違法だったが、今回の改正では違法アップロードされた漫画や写真、論文などのダウンロードも新たに違法となり、民事上の損害賠償請求等の対象となることになった。また、正規版が有料で提供されている著作物を反復・継続してダウンロードした場合には2年以下の懲役または200万円以下の罰金の刑事罰の対象となる。
この度の法改正ですべての著作物に規制が適用された背景には、どんな狙いがあるのか。エンタメ業界に詳しい小杉・吉田法律事務所の小杉俊介弁護士に話を聞いた。
「今回の法改正の狙いは、2018年に社会問題となった『漫画村』などの海賊版サイトや、そうしたサイトに誘導するリーチサイトを規制することが第一にあると考えています。しかしながら、数十ページの漫画のうちの数コマであったり、スクリーンショットの一部に写り込んだ場合などは規制対象外となるなど、その線引きは複雑で、かえって一般の方々にはわかりにくい条文になっている印象も受けます」
文化庁が発表した「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/pdf/92359601_02.pdf)によると、たとえば、「数十ページの漫画のうちの数コマなど軽微なものは規制対象外」とされているものの、どこまでが「軽微なもの」かは曖昧だ。インターネット上でよく見られる、漫画のキャラクターをアイコンとして使用することや、あるいは漫画の吹き出し内の文字を改変してアップロードすることも、「軽微なもの」に含まれるのか解釈は明確ではない。また、「二次創作者が原作者の許諾なくアップロードした二次創作物については、それが違法にアップロードされたものだと知りながらダウンロードしたとしても、違法とはならない」など、二次創作の扱いも複雑だ。この辺りが、今回の法改正の分かりにくい部分だろう。
「法改正の一番の目的は海賊版サイトの運営者らを狙い撃ちにすることですが、当然ながら新たに規制を敷くことには反発もあります。おそらく幅広く有識者らや一般の意見を取り込み、例外となるケースを細かく挙げていった結果、とてもわかりにくい条文になってしまったのだと思います。
また、著作権はどこまで認められるのかという議論は何十年も前からあり、漫画「POPEYE」の図柄を許可なく付したネクタイを販売した業者を著作権者が訴えた「ポパイネクタイ事件」(最判平成9年7月17日)では、最高裁で漫画キャラクターの著作物性が否定されました。このことは、著作権法は一つのまとまりとしての作品を保護するためのものであるということで、今回の法改正の趣旨もまた、あくまでも漫画を一話丸ごと転載することや、それをダウンロードすることを規制するものだということです。ただ、Twitterなどでキャラクターを無断使用しても良いということでもなく、あくまで今回のダウンロード規制の対象にはならないだけなので、注意が必要です」
今回の法改正は、一般のユーザーの規範意識を高めることに繋がるのだろうか。