男が拾った生き物は「猫」なのか? もふもふとサラリーマンの不思議な共同生活『猫を拾った話。』
異形の「ねこ」から学ぶ命の価値
「ねこ」は一般的な猫のフォルムとはかけ離れた、禍々しい見た目をしている。けれど、ページをめくっていくと、いつの間にか恐ろしさよりも愛しさが勝っていく。イガイに甘え、たまにお茶目な一面を見せる「ねこ」には猫らしいかわいさと猫にはない愛くるしさが混在しており、思わず目尻が下がってしまうのだ。
また、「ねこ」の気持ちが垣間見える描写にホロリとさせられることも。特に印象的だったのが、イガイがブラッシングをして集めた「ねこ」の抜け毛がひとつ目の生き物になり、彼を見守るというエピソード。バッグにこっそり入り込んだその生物は、家の外でのイガイの行動を映像で記録。そして、イガイが寝静まってからテレパシーのようなものを使って映像を「ねこ」と共有し、安堵し合う。抜け毛から謎の生物が生まれるという超常現象は、自分がそばにいない時でも愛しい飼い主を守りたいと「ねこ」が願った末に起きたものであるように思え、胸が熱くなった。
「ねこ」はおそらく、猫ではない。しかし、そうだとしてもイガイにはもう関係ないだろう。なぜなら、イガイは猫という動物ではなく、目の前の存在を心の底からかわいいと思い、愛しているからだ。周囲からどんな視線や声を向けられても変わらないであろう彼の愛に触れると、命の価値を改めて考えたくなる。自分がさげすんでしまいそうな命も、もしかしたら他の誰かにとっては愛しくてかけがえのないものなのかもしれないと気づき、動物だけでなく、理解できないと思っている人間相手にも少し優しい眼差しを向けたくなる。
猫のようで猫ではない謎の生物はその姿を通し、どんな命も等しく愛おしいことを教えてくれるのだ。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『猫を拾った話。(1)』
著者:寺田亜太朗
出版社:講談社
定価 : 本体1,000円(税別)
<発売中>
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000339110