『まんがひみつ文庫』から『ウンコロジー入門』まで……休校中の児童に読ませたい、勉強の動機を与える良書6選

休校中に児童に読ませたい良書6選

氏田雄介『54字の物語』(PHP研究所)

 一方的に読むだけ、観るだけでは、子どもでなくても飽きる。自分が能動的に参加できる、作って楽しむ要素があるとよい。

 小学生でも参加できる、気軽な創作フォーマット/ムーブメントが「54字の物語」だ。

 54字の物語は9字×6行の正方形サイズの原稿用紙フォーマットに2文または3文で構成された物語を綴る、というもので、TwitterやInstagram上で人気を博している。たとえば

「痛ってぇ~!また人間の足の小指が、角にぶつかってきたよ~」部屋のタンスが激痛に顔を引きつらせて叫んでいる。」(『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』P157)

「大好きだった映画鑑賞や読書がある時から全然楽しめなくなってしまった。予知能力なんて身につけるんじゃなかった。」(同、P173)

 といった具合の超短編小説になっている。これはもともと面白法人カヤックに勤めていた(現在は独立)氏田雄介がネット上で流通しやすい形式を意識して考案したものだ。

氏田雄介『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』(PHP研究所)

 「54字の物語」は、1作1作は短く完結しているが、共通フォーマットがあり、ハッシュタグで辿りやすい。Twitterやインスタ上に「#54字の物語」と入れて検索する、あるいはハッシュタグをクリックすれば、同じフォーマットで書かれた作品を無数に見つけることができる。本シリーズは誰でも簡単に制作し、Twitter上に投稿できるジェネレーターを公式サイト上に公開しているため、それを使えば小学生だって参加できる。

 これは一部の小学校の総合的学習の時間などでも採用されており、ネットだけでなく学校現場からもお墨付きのコンテンツになっている。

 たったの54字なので作文が苦手な子でも「書けそう」と思えるところがポイントだ。

 書籍版では毎巻、書籍巻末に「作り方のコツ」をまとめており、「自分でも書けそう」という気持ちを起こさせるものになっている。たとえば『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』では

(1)物語のシチュエーションを決めよう
(2)そのシチュエーションの「普通」を考えよう
(3)「普通じゃない」状況を考えよう
(4)「なぜ?」「何?」を考えよう
(5)文字数を気にせず書いてみよう
(6)54字に調整しよう

 とまとめている。

 小学生向けの読みものではこの「54字の物語」以外にも、小林丸々『1話1分本当はこわい話』(角川つばさ文庫)など、よく考えて読むとオチの意味がわかるタイプのショートショートが流行っている。子どもが家でただ動画を延々観ているくらいならこういうものを手がかりに創作に励んでもらったほうが将来につながるはずだ。短いものなら親子でいっしょに考えることもできるし、子どもから「読んで」と言われて講評するのも簡単だ。

伊沢正名『ウンコロジー入門』(偕成社)

伊沢正名『ウンコロジー入門』(偕成社)

 コロナ騒動によってトイレットペーパーの買い占めが起こり、「充分に量がある」と言われながらも地域によってはなかなか買えない状況が続いている。

 しかし、そもそもなぜウンコの処理にトイレットペーパーが必要なのか?

 オイルショックでトイレットペーパーの買い占めが起こった1974年から現在まで野ぐそを続けている、菌類愛好家の伊沢正名氏がウンコからSDGsを考えたのがこの『ウンコロジー入門』だ。

 実は現代日本人のうんこ観は自然観とつながり、大きな社会課題ともつながっている。

 伊沢さんはオイルショックを機に野ぐそライフをはじめ、葉っぱでケツを拭き始めたが、完全に紙をやめるのは不安で、最後の仕上げだけは紙を使っていた。しかし1990年に近所の林で野ぐそしていたときに、うんこをするための穴を掘っていたら白い紙がぽろっと出てきた。うんこも葉っぱも分解されているのに、紙だけはいつまで経っても分解されていなかった。これはまずいと思って、完全な葉っぱ野ぐそを確立したのだ。そう、トイレットペーパーは水溶性だが土には溶けず、地球によいとは言えないシロモノなのだ。

 大正時代まで、うんこは肥やしとして商売上の奪い合いになるほどだったが、昭和になって化学肥料の生産が本格化するとうんこの経済価値が下がり、余った糞尿が河川に不法投棄されるようになった。

 今では「海を汚染する」という理由で国際的に海洋投棄は基本的に禁止され、最終的には重油で燃やしてセメントの材料になっていることが多い。莫大なコストとエネルギーを投じてうんこは処理されている。

 しかしやり方さえ間違えなければ、人間は今でもうんこを土に還すことは可能であり、そのほうが他の生物の役に立つ、地球環境にとって良いエコなものになるのだ、というのが伊沢さんの主張だ。

 また、熊本では地震が起きたときに水道も屎尿処理場も停止して野ぐその習慣がない人たちは困り果てた。今も「紙が尽きたらどうしよう」という不安を多くの人が抱えている。

 今こそ野ぐその価値を再考し、果たして現在のうんこの処理方法は最善なのかを見直す時期に来ている――身近な存在であるうんこから現代文明のしくみ、地球スケールの生命同士のつながり・循環にまで広がる点で、子どもの興味関心に訴えかける1冊になっている。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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