みずほ銀行トラブルの背景にあった恐るべき状況とは? 『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』を読む
銀行側自体がもともと三行が別組織で別々のシステムを使っていた。三行を二行にするという特殊な合併をしたあとも、各事業部ごとの縦割り意識が強い。そうでなくても、システムの使い勝手を変えると業務プロセスに影響があるために現場からの反発が大きい。合併にあたって新しくシステムつくることにも複数社(孫請けなどまで含めるとなんと1000社に及ぶ)が関わる。経営陣はシステムのことがわからない。……こんなプロジェクト、すりあわせが大変で当たり前である。
では、どうやってまとめていったのか。たとえば以下のような方策がされたという。
・みずほ内で横串のプロジェクトチームをつくる。
・四重にリスクチェックする体制をつくる。
・要件定義の「現行通り」を禁止して必ず新規に規定。
これだけでもめちゃくちゃ調整・チェックに時間がかかることは容易に想像がつく。それは進まないわけだ。それからびっくりしたのは以下である。
ツールでしかプログラムを生成しないことにして属人性を排除し、保守性を高めた。つまり、エンジニアにコードを書かせるのをやめた(!)のだという。
部分的な改修を長年にわたり続けていった結果、システム責任者にすら全容がわからないブラックボックス化が進んでいたことが、東日本大震災後に大量の義援金振り込みによる障害が起こった原因であり、その原因解明に時間がかかった理由でもあるそうだ。それで本当にうまくいくのかはわからないが……。
MINORI稼働後のみずほの社長インタビューも載っていて「開発時に開かれたテレビ会議には膨大な人数が参加するため、トラブルがあっても言い出しにくいであろうことから、質問するときには間を開けて聞かれた側が言いやすいよう心がけた」と語っているのだが、これは裏を返せば基本的にはものすごく言い出しにくい状態で各社が仕事を進めないといけない環境にあった、ということだろう。あっさりした記述が続くものの、想像力を膨らませながら読むと胃が痛くなったり、こわくなったりしてくる本である。
本当のホラーはこれからだ!(にならないことを祈る)
本書に書かれているとおり、日本の他の金融機関はいまだにMINORIよりも古い世代の勘定系システムを使い続けており、このままいわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応に失敗すると、年間12兆円の社会的損失が生まれる「2025年の崖」と呼ばれる事態が目前に迫っている。
そうでなくてもいつまでまともに動いてくれるのか、システムを刷新したとしてかつてのみずほのような障害は起こらないのかということだけでも不安でいっぱいである。特にお年寄りの利用者が多いゆうちょ銀行とかね……大丈夫なのか……?
こんな本が出ないことを祈るばかりだ。おそろしい…………。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。
■書籍情報
『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』
著者:日経コンピュータ、山端宏実、岡部一詩、中田敦、大和田尚孝、谷島宣之
出版社:日経BP
価格:1,980円(税込)
<発売中>
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/20/277410/