ナイツ 塙が語る、M-1論と芸人の辞めどき 「40歳くらいの芸人はみんな悩んでる」

ナイツ塙が語る、芸人の辞め時

売れるチャンスはいくらでもある

――『言い訳』には2018年の『M-1』までの話が書いてありますが、今年になってから、2018年に優勝した霜降り明星たちが“お笑い第7世代”と括られ始めましたよね。塙さんから見た、“お笑い第7世代”の特徴とは?

塙:霜降り明星や四千頭身、EXITとかですよね。あの世代は本当に強いですし、どことなく自由に見えるんです。僕が思うに、明石家さんまさんとあの子たちは、40歳くらい年齢が離れてるじゃないですか。僕らからしたら、80歳くらいの人と絡むのと同じで、世代が上すぎてあまりリアリティがないからこそ、のびのびとやれるのかもしれません。

――40歳くらいの先輩芸人と明石家さんまさんを、フラットに“先輩”として接するというか。

塙:そうそう。何ならイジれたりもするし、先輩たちもそれを面白がってくれる環境なわけですよ。

――孫を可愛がるような気持ちなのかもしれません。

塙:ああ、そうでしょうね。息子世代には厳しくするけど、孫世代には優しい、みたいな。

――なるほど。オードリーの若林正恭さんや平成ノブシコブシの2人、アンガールズの田中卓志さんなども『あちこちオードリー』でお話されてましたが、塙さん含め、40歳前後の芸人さんだからこその苦悩、というのもあるんですよね。上が詰まっていて、下からも突き上げられていて、でも枠の数は限られていて、それぞれが生き残り方を探している。

塙:そうですね、40歳くらいの芸人はみんな悩んでますよ。飲みに行っても「どうしようか」みたいな話を聞くことは多いです。僕個人の意見ですが、人によっては「早く辞めた方がいいんじゃないか」と思ったりすることもあります。

ーーその理由は?

塙:結局振り返ってみれば、売れるチャンスはいくらでもあったんですよ。でも、やっぱり他人事になってるんでしょうね。若手が強いのは、全部がチャンスだと思ってるから。売れてない中堅〜ベテランは、全部「人がやってる大会だ」「俺らには関係ない」って言ったりしているけど、こっちからすれば「もっと頑張ればいいじゃん」って言いたくなるんです。この間も、結構売れかけていた後輩から「辞めるかもしれない」という相談を受けて、「どうすんの?」と聞いたら「でも、嫌なんですよね。お笑いしかやりたくない」と。だから「好きなことだったら、月に100本ネタ作ってるの?」と聞くと「いや、そんなの作れるわけないじゃないですか」と返ってくるんです。本当に好きだったら、ある時期だけでも全力でやれるじゃないですか。そこをやらないまま辞めるのが勿体ないなって思うし、それができないなら自分で思ってるほど好きじゃないから無理でしょ、と思うんですよね。

――本を出してから、先ほどのように芸人同士でお笑いについて話すことは増えましたか?

塙:最近はめっきり行かなくなりましたね。飲みに行くのは近所に住んでる作家さんだけで、今年に入ってからドラマばっかり見ています。今年だけで80本くらい見てますから(笑)。本を出してから、お笑いの話をするのは少し飽きちゃったかも。

ーー出し切っちゃったところもあるんですかね(笑)。

塙:飲みに行くのって、売れてない時が一番楽しいんですよ。夢を語って、好き勝手色んなことを言えるじゃないですか。そこに僕が行くのは若手からしても嫌だろうし、同世代の友達はビジネスの話しかしないですし。「YouTubeこうやったら儲かるよ」「オンラインサロンは儲かるよ」とか、そんなの別にどうでもいいんですよね。世の中の価値観は金になっちゃって、みんなビジネスの手法ばっかり覚えてくるけど、そういう人とは話が合わない。芸人としては、誰々のゴシップとか、師匠とのエピソードとかのほうが面白いわけですよ。

後編へ続く

(取材・文=中村拓海/撮影=富田一也)

■ナイツ・塙 宣之(はなわ のぶゆき)
芸人。1978年、千葉県生まれ。漫才協会副会長。2001年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。08年以降、3年連続でM-1グランプリ決勝進出、18年、同審査員。THE MANZAI 2011準優勝。漫才新人大賞、第六八回文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞、第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。

■書籍情報
『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』
塙宣之 著
価格:902円(税込)
判型:新書
発売/発行:集英社
公式サイト

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