ナイツ 塙が語る、M-1論と芸人の辞めどき 「40歳くらいの芸人はみんな悩んでる」

ナイツ塙が語る、芸人の辞め時

番組が付けるキャッチコピーの大切さ

――ネタの研究という視点では、いわゆる“M-1漫才”や“4分漫才のスポーツ化”についてここまで焦点を当てた上で、板の上に立っている側からの意見がしっかり入っているのはすごく刺激的でした。

塙:予選で4分10秒経ったら警告音流れて、4分半で暗転になる大会なんて、他にないじゃないですか(笑)。ネタ番組は4分って言われても、5分やったところで怒られないし、他で調整が効きますから。そりゃビビりながらネタ作りしますよ(笑)。

――時間との闘いの中で大会が進んでいくにつれ、顕著になったのが“ボケ数の量”という基準でした。何個が適正かみたいなところまで、細かく研究されるようになってきて。

塙:ボケ数については、始めにナイツとしてキャッチコピーが作れるくらいわかりやすい型を作ろうとして、「下ネタ漫才」とか「野球漫才」とか色々試すなかで「100ボケ漫才」という型を実験することにしたんですよ。事務所のライブが4〜5分尺なんですけど、そこにボケを100個入れられないかと。結局ダメだったんですけど、大体4分で30個くらいボケられることがわかって、『M-1グランプリ』のときには38個のボケを入れました。そういう実験みたいなことを結構やっていたので、具体的な数字も含めて理論化できたんだと思います。若手はもっと、こういう実験ライブみたいなものをやってみるといいかもしれませんね。そういうところから変な奴って生まれてくるから。

――ある種の型の限界を追求するというか。

塙:そうそう。さっきのキャッチコピーに関しても、『エンタの神様』(日本テレビ)からの流れで、お笑い界が「キャッチコピーがないと売れない」という感じだったんですよ。「Wボケ 笑い飯」、「妄想漫才 チュートリアル」とか、『M-1グランプリ』だって実際そうとも言えますが、普通の漫才をやってても売れないんですよ。そういう意味では、キャッチコピーの付けづらい和牛が苦戦している理由もわかる気がしますよね。

――腕があって器用で、役に入り込むネタが多いからこそ特色が付け難い。

塙:そうなると「本格派漫才」というキャッチコピーになるわけです。これをどう取るかですが。

――そういう意味では、『エンタの神様』も『M-1グランプリ』も、遡れば『ボキャブラ天国』(フジテレビ)もそうですが、出番前に流れる紹介VTRの功罪もあるような。

塙:功罪、と言ってしまえばそうかもしれませんが、それで色がつけれるなら、商品価値を上げる意味としては絶対にあった方が良いですよ。僕らの場合は、スタイルとしては“言い間違い漫才”で出てきましたが、それをキャッチコピーにされちゃうと、いずれやらなくなるネタだから嫌だなと思ってたんです。そうしたら、『爆笑レッドカーペット』で演出を務めていた藪木健太郎さん(フジテレビ)が、「ベテラン風若手漫才」ってキャッチコピーを付けてくれて、これがすごくお気に入りで。

――芸人さん側がつけるにせよ、スタッフ側がつけるにせよ、一つ目のキャッチコピーがどうなるか、というのはすごく大事ですね。

塙:僕らは「若いけどちゃんとやってる」みたいなイメージが商品価値としてついたからこそ、ここまで続けられている、という部分もありますよ。

漫才を音楽に例えると……

――あと、演者側だからこその解説だなと思ったのは、サンパチマイクの前に立っている2人とお客さんの視線について言及していた“三角形(ボケ、ツッコミ、客の関係性を指す)”の話で。

塙:あれは(島田)紳助さんに言われたんですけど、当時はよくわからなかったんです。今はなんとなく理解できるんですけど、これって扇風機みたいなもので、ちゃんと首を振って皆に分散したほうが、笑いって循環していくみたいなもんで。だから少し横を向いてみたりとか、コンビ同士でぶつけ合って圧力をかける、という動きがあったほうがいい、という理論なんですよ。

――それが見てる側からすればメリハリが付いているように見えるし、観客自身も“観られている”という感覚につながると。

塙:そう。でも、それって4分漫才であれば決してこだわらなくてもいいと思うんです。15分とか20分漫才では必須のテクニックですけど、4分だとまっすぐ走り切ってもいいかも。僕らは2009年に今までのスタイルを無理に崩そうとして、若干中途半端になっちゃったんで。

ーーフォームを修正しようとして、逆に崩れちゃったわけですね(笑)。

塙:まさに(笑)。それが原因で「漫才、どこ向いてやるんだっけ?」って悩んだりしたので。

――すべてのアドバイスがすべての人に当てはまるわけではないという……。

塙:紳助さんも「それは俺の好みや。お前らがやる、やらんもそれは好みやから」と言ってくれました。僕らの漫才に関しては、システム化しすぎちゃったのがダメだったと思うんですよ。言い間違えにしても、「宮崎駿」だけで最初から最後まで行くからこそ、全部がプログラムされた漫才みたいになって、勢いが出ないわけです。だから2011年の『THE MANZAI』では、切り分けて色んなボケをやって、勢いをつけることができました。

――ナイツの漫才はYMOから影響を受けて、ある種テクノ的に作った、と色んなところで言及されていますね。本の中でもオードリーをジャズ、南海キャンディーズを子守唄と音楽に例えていましたが、M-1漫才は4分釈という意味でも、J-POP的なものが最適解なのかもしれません。

塙:イントロから掴んだり、テンポが良かったり……いきものがかりみたいな漫才が一番なのかもしれません。そういう意味では漫才と音楽ってやっぱり似てますね。音楽って音を楽しむって書くけど、漫才もやっぱり楽しくないといけないし、それが顕著にお客さんに伝わるジャンルですよ。あと、ロックが好きな小峠さん(英二/バイきんぐ)みたいに、顕著にスタイルに反映されていたりしますから。

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