心地よい暮らしの達人・後藤由紀子の“愛しい日々の読書” 第1回:八千草薫『まあまあふうふう。』

「終活」と「ご飯」

   断捨離についても、大変おこがましいですが、同じ考えで嬉しくなりました。思い入れのあるものが暮らしを彩るのに、それがないなんて味気ないじゃないと思います。そんな思い出とともに暮らしているのに、それを捨てるということは自分の身を切られる感覚。

   八千草さんは終活を試みたときも、愛用品をこれはあの方にと書き続けていたら、だんだん苦しくなり、途中で断念されたそうです。それでも周りの人に迷惑をかけることは避けたいと、最近遺言状を作成されたという後日談を何かのインタビューで読みました。

   そして食事について。好き嫌いなく、何でもおいしく残さず食べるというのは、育ちの良さがうかがえ、そういうところをおざなりにするのではなく、豊かで大切な時間として長年楽しんでこられた方は説得力が違います。穏やかな表情に人生がにじみでています。

   早速、紹介されていたミルク紅茶を真似して作り、飲んでみるとやさしくておいしくて、心まで温まりました。この本を読んで、八千草さんはじめ向田邦子さん、高峰三枝子さん、沢村貞子さんなど、そして身近な友達も含めて、ちゃんと食べている人が私は好きなんだなぁと再確認。そういう方は、心身ともに健やかで穏やかな印象がします。

余生の過ごし方

   現在、たくさんの動物の置物、そして猫と犬、庭にやってくる猫2匹と小鳥たちと暮らしているそう。愛し愛されて癒し癒され、かけがえのない存在なのでしょう。目じりを下げて笑っている写真が物語っていました。それを見ている私もつられて目じりが下がります。

「気遣い・無欲・控えめ・楽しむ・執着しない」。出てくるキーワードが、うんうんとうなずきながら、読んでしまうほどにしっくりきました。
「何かひとつだけに、のめりこんでしまうことが少ない」 という言葉にも深く納得しました。病気についてもしょうがないと受け止めて、それについてのインタビューも「皆さん心配してくださるんですが、わりあい元気なんです。今のところ、ね」と穏やかな笑顔でお答えしたといいます。年齢を重ねていろんな思いがあって患って、それでも周りの人のことを思いやって謙虚でかわいい方、大味で派手ではなく、佇まい、所作、表情で語らずとも存在感のある魅力のあるかた。

   そして、いちばん最後の言葉にジーンときてしまいした。八千草さんのように素直にそう言える人間でありたいなと思いました。読み終えた後には清々しさと潔さと穏やな気持ちがごちゃまぜの気分になった、そんな本でした。

■後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
1968年静岡県生まれ。静岡県沼津市の雑貨店「hal(ハル)」店主。庭師の夫、長男と長女、猫のたまの4人と1匹の家族。センスの良い暮らしぶりが雑誌などで人気。著書に『50歳からのおしゃれを探して』『おとな時間を重ねる 毎日が楽しくなる50のヒント』『毎日続くお母さん仕事』など、暮らしまわりにまつわる著書多数。

■書籍情報
『まあまあふうふう。』
八千草薫 著
発売中
価格:1,400円+税
判型:A5
発行/発売:主婦と生活社
公式ホームページ:http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-15250-0

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