テイラー・スウィフトは今、何を歌うのか 新作『The Life of a Showgirl』が描いた“第一部”の美しい幕切れ

サブリナ・カーペンターとの邂逅
もちろん、すべてがヘヴィな楽曲というわけではない。定番の性的な比喩を使って今の幸せをユーモラスに描いた「Wood」のような楽曲もあれば、WeezerやPixiesのようなインディーロックの軽快なサウンドに乗せてチクリとチャーリーxcxに攻撃を仕掛ける「Actually Romantic」など、下世話な需要に関しても本作はしっかりと満たしてくれる(チャーリーxcxの大ファンとしては少々複雑な気分にはなったけれど)。
だが、やはりテイラーのペンが最も冴え渡るのは、今の自分自身の姿を赤裸々かつ率直に描きあげる瞬間だ。アルバムの最後を飾る「The Life of a Showgirl (feat. Sabrina Carpenter) 」では、現代を代表するもう一人のポップ・アイコンであるサブリナ・カーペンターを招いて、かつて自身が憧れたショーガールのゴージャスで美しい姿と、彼女から告げられた〈But you don’t know the life of a showgirl, babe〉(でも、あなたはショーガールの人生なんて知らないでしょ)、〈the more you play the more that you pay〉(楽しめば楽しむほど代償は大きくなるの)という言葉を並べながら、かつてのテイラーが抱いていた「ステージの上に立つ人物への憧れ」と、「その向こう側で待っていた現実」を同時に歌い上げてみせる。
確かに、今のテイラーは間違いなく世界トップクラスのセレブリティであり、普通であれば彼女に共感することなどできないはずだ。だが、「Father Figure」に象徴されるように、彼女が経験した痛みの根源にあるものは、有名無名を問わず、今もなお多くの人々を苦しめているものに他ならない。そして、テイラーが感じているトラヴィスとの幸せも、同じく普遍的なものである。こうしたポジティブとネガティブのどちらかだけではなく、両方を鮮やかに描いてみせるからこそ、多くのファンが共感し、夢中になっていくのである。
そうした“リアル”は、本作の作風にも通ずるものがあるだろう。最大のヒット作である『Red』や『1989』にプロデューサーとして大きく関わっていたマックス・マーティンとシェルバックの帰還は、多くの人々に「あの頃のようなヒット曲の再来」を期待させた。だが、実際に聴いてみると分かる通り、本作の方向性自体は、ジャック・アントノフとともに制作された『Lover』以降(特に『Midnights』)の、聞き手に寄り添うような落ち着いた手触りを追求したものとなっており、金曜日のパーティーよりも、移動時間に何気なく聴いたり、仕事終わりにじっくりと浸るのが似合う仕上がりだ。それは、今のテイラーの心境の表れでもあるように思う。
一部では“賛否両論"と語られることのある本作だが、現時点で『The Life of a Showgirl』は売れに売れている。米国では初日だけで270万枚(フィジカル+デジタルダウンロード)を販売し、今年、アメリカで最も売れたアルバムとなった(さらに翌日には、全米史上最速で300万枚のセールスを達成している)。各種ストリーミングサービスでもリリースからわずか11時間で今年最大の初日ストリーミングを達成するなど、その勢いは留まるところを知らない(本稿執筆時点でも、Spotifyのグローバルチャートを調べたところ、トップ10全曲が本作の楽曲だった)。この結果からも分かるように、わざわざ無理をして、過去の再現をする必要はないのである。ただし、その眼差しは鋭く、音色はしっかりと磨き上げられている。
個人的に『The Life of a Showgirl』を聴いていて感じたのは、「これが『THE ERAS TOUR』の最後のセクションだったら、きっと、もっと素晴らしかっただろうな」ということだ(『Midnights』で終わるのも悪くはなかったが)。もちろん、これからも音楽を作り続けると明言はしているのだが、最後の「The Life of a Showgirl (feat. Sabrina Carpenter) 」を聴いていると、これがアルバムだけではなく、ひとりのミュージシャンの人生における“第一部”の美しい幕切れのように思えてならない。
〈Hey Kitty/And now I’m making money being pretty and witty/Thank you for the lovely bouquet〉(やぁ、キティ/私は今、美しさと賢さで稼いでいるよ/素敵な花束をありがとう)
『The Life of a Showgirl』は、テイラーによる惜しみない感謝の言葉と、盛大な拍手によって締めくくられる。そうして幕は一旦閉じるが、ショーガールと私たちの人生は、これからも続き、再びこのステージで再会する日のために、今日を生きていくのである。
■リリース情報
『The Life of a Showgirl』
発売中
配信リンク:https://umj.lnk.to/TS_TLOAS

『The Life of a Showgirl』(国内盤)
発売日:2025年12月12日(金)
[通常盤]
品番:UICU-1370
価格:¥3,300(税込)
[ジャパン・デラックス・エディション]
品番:UICU-9122
価格:¥5,280(税込)
[直輸入盤仕様LP]
品番:UIJS-7010
価格:¥10,340(税込)
<収録曲>
01. The Fate of Ophelia
02. Elizabeth Taylor
03. Opalite
04. Father Figure
05. Eldest Daughter
06. Ruin The Friendship
07. Actually Romantic
08. Wi$h Li$t
09. Wood
10. CANCELLED!
11. Honey
12. The Life of a Showgirl (Feat. Sabrina Carpenter)
■関連リンク
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