Mrs. GREEN APPLEが肯定する“セルフケアの尊さ” 三者三様のダンスを駆使した鮮やかな表現力

 さらに、「breakfast」のMVで大きくフィーチャーされているダンスについても、(良い意味で)バンドとは思えないくらいのしなやかな動きや、鮮やかなフォーメーションの切り替わり、大きく動く中でもブレることのないチャーミングな表情などに目を奪われる。特に、サビにおける〈あなただけの世界が〉でキレのある上下の動きを披露してから、〈今日も広がっていく〉で柔らかで包み込むような動きへ切り替えるという、巧みな身体のコントロールぶりはとてもバンドのパフォーマンスとは思えないものだ。メンバーの個性も光っていて、キレのある動きでクールかつ堅実にキメるところをキメている若井滉斗(Gt)、常に親しみやすいムードを纏い、ポジティブ全開な豊かな表情で魅了する藤澤涼架(Key)という好対称の2人の間で、優しい眼差しで軽やかに踊る大森の姿が印象に残る。

 また、楽曲のテーマを深堀りした上で改めて見てみると、自分の髪をセットしたり、自分を抱きしめたりと、ダンス自体が「(踊り手である)自分自身をケアする」動きになっていることがわかる。すなわち、これを踊るという行為自体がセルフケアへと繋がっているのだ。特に、それまで穏やかな表情を保っていた大森が〈何でもない/奇跡をあなたは持っている〉のパートで大きく動く瞬間では、「この言葉を特に伝えたい」という彼の想いが爆発しているように感じられる。だからこそ、コレオグラフ・ビデオの存在は重要で、ダンスを通して「ケア」自体もさまざまな枠を超えて広がっていくのである。これは間違いなく、電子音からバンドサウンド、ダンスから映像に至るまであらゆる表現手段で以って楽曲の世界観を表現する「Mrs. GREEN APPLEというバンド」以外には成し得ないものだろう。

Mrs. GREEN APPLE「breakfast」Official Choreography Video (with Dancers)

 何かにつけて「正しさ」を求められ、SNSなどの承認欲求を原動力としたシステムの窮屈さに誰もが限界を迎えている時代に、ミセスは〈身支度を済ませて/陽の光を浴びて/朝食を済ませてゆく〉という「他の何も気にすることのない、自分のための行為」がいかに特別かを、出来うる限りの手段を駆使して全力で表現する。そして、その表現は現在進行形で数々の歌番組や音楽フェスティバル、SNSを通して大衆へと広がっていく。

 誰もが言いたいけれど言えなかったことを、圧倒的な表現力で見事に描き上げ、多くの人々へと届けることができる。だからこそMrs. GREEN APPLEはこれほどまでの支持を獲得しているのであり、「breakfast」はその証明に他ならない。

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