大森元貴、“プライベート空間”で零れた『絵画』という感情 約4年ぶりのソロ作品が今生まれた意味
大森元貴が3rd Digital Single『絵画』を5月28日にリリースした。
Mrs. GREEN APPLEのコンポーザーでフロントマンの大森が、ソロ名義で新曲を発表するのは約4年ぶり。大森がソロ活動を始め、1stデジタルEP『French』、2ndデジタルEP『Midnight』をリリースした2021年は、Mrs. GREEN APPLEが活動休止中だった。大森はソロでバンドとは異なる音楽性にトライ。また、1stEP表題曲「French」のMVでダンスに挑戦し、2ndEP表題曲「Midnight」のMVでは鮮やかなヘアカラーで姿を現し、私たちを驚かせた。そして2022年3月にはMrs. GREEN APPLEがカムバック。今思えば、「大森は最近こういう音楽に興味があるんだな」「Mrs. GREEN APPLEはフェーズ2でこういうことを取り入れようとしているのだろうか」と予感させるようなソロ活動だった。
一方、今はミセスも活発に動いているという違いがある。特に今年はデビュー10周年で、4~6月に3カ月連続で新曲が出たばかり。今回のリリース情報が発表された時にファンがざわついていたのは、「ミセスの活動も忙しいだろうに、ソロ活動も?」という驚きがあったからだろう。改めて書き出すと、4月にはMrs. GREEN APPLEの楽曲「クスシキ」リリース&大森の主演映画『#真相をお話しします』公開、5月にはMrs. GREEN APPLEの楽曲「天国」リリース&大森のソロ『絵画』リリース、6月にはMrs. GREEN APPLEの楽曲「breakfast」リリースという時系列になる。すごいタイミングでソロを挟んできたな、と思う。6月23日に放送される『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)では、Mrs. GREEN APPLEと大森元貴がそれぞれ最新曲を披露するというが、バンドとソロの同時出演は4年前は実現し得なかったことだ。
では、2025年現在の大森にとって、ソロ活動はどういうものなのかを考えてみたい。
まず大森自身は、Mrs. GREEN APPLEを「絶対的な帰る場所」、ソロ活動を「おでかけ」と表現し、楽曲を生み出す場を複数設けるのは「心身の健康のため」と述べている(※1)。Mrs. GREEN APPLEは今や巨大なプロジェクトだ。そして大森は全体を統べるプロデューサーとして、バンドや自分の現状、パブリックイメージを俯瞰しながら舵を取っている。現在のMrs. GREEN APPLEや“フロントマン 大森元貴”が持つイメージに対する大森の自己認識は、『#真相をお話しします』と主題歌「天国」に関するインタビュー(※2)から確認できるだろう。今流行りのバンドのボーカリストである自分が映画で主演を務めることは、ある種ポップコーンムービー的であり、それ自体が作品のトリックになる――と当人が語っているのが、このインタビューの凄まじいところ。今、Mrs. GREEN APPLEの周りにはたくさんの人(リスナー、スタッフ、タイアップという形でタッグを組む企業など)が集まっていて、様々なものが付随している。注目度も高い。バンドがここまでの規模になると、新曲を出すことはリリース後に起こる現象のデザインになる。大森はそのことにかなり自覚的なプレイヤーだ。
だからこそ、もっとシンプルな動機で曲を作れるような、コーヒーを淹れがてらふっと立ち寄るアトリエ的な場所がほしかったのではないかと、今作を聴いて思った。表題曲の「絵画」は抽象的な楽曲だ。この曲が世の中にこんなふうに届いてほしいというビジョンも、リスナーに伝えたいメッセージみたいなものも見えない。誰に向けた歌なのかがわからないし、そもそも誰に向けた歌でもないのかもしれない。バンドの進む道筋、メンバーやチームと描くビジョンには当てはまらないが、大森の日々から零れた感情、生み出された音楽のパッケージングだと感じた。
千切れた羽、冷えた部屋など曲中に登場するモチーフは静的だ。全体を通して外の世界とのつながりを感じさせる描写はなく、全て一人きりのアトリエ内で完結している。サビのラストフレーズ〈せめて私のためだけに/描いてほしい〉、〈せめて私のためだけに/歌っていて欲しい〉、〈せめて貴方の部屋に/その絵画を飾ってほしい〉も誰が誰に宛てた言葉なのか明確ではないが、個人的には、この曲自身が大森にそう訴えているんじゃないかと解釈した(曲中にキーボードのタイピング音が挿入されているのも象徴的だ。大森は普段DTMで楽曲を制作している)。言うまでもなくこの曲は大森自身が手を動かして作ったものであり、彼の潜在意識が投影されている。つまり、誰がため以上に自分のために曲を作ることを大森自身が求めていたのではないか――ゆえに今このタイミングでのソロ活動だったのではないかと、「絵画」という曲を聴いて感じた。