Mrs. GREEN APPLEが肯定する“セルフケアの尊さ” 三者三様のダンスを駆使した鮮やかな表現力

 Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)が新曲「breakfast」を6月4日にリリースした。5月に発表された「天国」に続く約1カ月ぶりの新曲であり、『サン!シャイン』(フジテレビ系)のテーマソングに起用されていることでも話題の楽曲だ。

 ミセスといえば、2025年Billboard JAPAN上半期チャートで史上初となる主要部門3冠(総合ソング、総合アルバム、アーティスト・チャート)を獲得するなど、今や日本における最重要アーティストだ。2022年のフェーズ2始動(活動再開)以来、従来のロックバンドとしてのオーセンティックなスタイルから完全に脱却し、ポップアーティストへと変貌を遂げた彼ら。今回の「breakfast」も朝の情報番組のテーマ曲らしい、爽やかで弾けるような曲調と、親しみやすくポップなスタイルを見せるメンバーはもちろん、公式のコレオグラフ・ビデオが用意され、ファンによるダンス動画も投稿され始めているという流れも含め、そうした印象をさらに加速させる新曲であるように感じる人もいるだろう。

 とはいえ、ただ単に「オシャレで、ポップで、TikTok映えする」という一面的な見方だけが彼らの魅力ではない。重要なのはミセスが厳しい現代を生きる多くの人々の内面と日常に寄り添うような「ネガティブを前提としたポジティブ」をさまざまな表現手法を使ってリアルに、立体的に描いてきたということであり、その表現力は「breakfast」においても見事に炸裂している。

Mrs. GREEN APPLE「breakfast」Official Music Video

 「breakfast」のテーマとなっているのは、タイトルや〈身支度を済ませて/陽の光を浴びて/朝食を済ませてゆく〉という最後のラインが示すように、1日の始まりを飾る朝食の風景だ。何気ない題材であるように感じられるが、余裕がなくなったり、深く落ち込んだりといった具合に、メンタルの調子を崩した時に真っ先に蔑ろになるのもまた、朝食である(余談だが、筆者も一時期、メンタルヘルスに問題を抱え、朝食をまったく食べることができずにいたことがある)。

 本楽曲が印象的なのは、楽曲の前半と後半、より明確に言うと最初のサビに入る前の〈『私らしく「おはよう」』〉というフレーズを境にして、楽曲の視点やつくりが大きく変わっているということだ。電子音を主体とした前半は、淡々と打ち鳴らされるキックドラムや、ピンと張った糸を弾くかのように響く弦楽器の音色、次々と重ねられていくさまざまな音色が、トラックの持つ緊張感をどんどん増幅させていく。その中心で歌われているのは〈どこかで泣いてる人が居る/私だって泣きたい夜もある〉というフレーズに象徴される、日々押し寄せるネガティブな情報の中で「何か“正しい”ことを言わなければならない」「間違った言葉を使うことで嫌われたくない」という焦燥感だ。言葉がスッと心に入ってくるような真っ直ぐなメロディが、ただでさえドキっとしてしまう感情を、より一層強く揺さぶっていく。

 だが、音使いや演奏、言葉やメロディに至るまでギチギチに張り詰めた緊張感は、〈『私らしく「おはよう」』〉というフレーズとともに、まるで風船に針を突き刺すかのように、一気に開放される。〈醒めない夢も/情けない現実も/ただ景色になっていく〉とキャッチーに歌われるサビも素晴らしいが、それ以上に唸らされるのは、再びAメロに戻ってきた時の変貌ぶりだ。先ほどまで電子音を中心に構築されていたトラックが、生楽器を軸としたものへと変わり、軽やかなドラムの音色と、ちょっとやり過ぎなくらいに動きまくるベースの音色が「バンドらしさ」を強調する。大森元貴(Vo/Gt)のボーカルも、先ほどまでの真っ直ぐな歌唱から変わって、まるでバンドが描くグルーヴと戯れるかのように自由にメロディを奏でていく。〈知らんけど〉とおどけながらも〈強気も良いけど僕はちょっと/ヒビが入ってるくらいがいいぜ〉と歌う彼の姿は、まるで前半で悩んでいる人に対して、「無理しなくていい」と優しく手を差し伸べているかのようだ。

 つまり、楽曲の前半が聞き手側の目線を描いているとすれば、後半はそうした状況に対するバンド側からのメッセージを表現しているように感じられるのである。〈愚かさを諦めなければ良い〉という強烈な言葉が、「愚かだと思われたくない」という現代を生きる上での苦しみに優しく寄り添い、誰よりも自分のための行為である「朝食」へと誘うのだ。

Mrs. GREEN APPLE「breakfast」Behind the Scenes

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