Mrs. GREEN APPLE「天国」の重々しい衝撃 大森元貴が問う、抗えない現実を受け入れながら“生きる”こと

 衝撃作、あるいは問題作と言っていいと思う。Mrs. GREEN APPLEの新曲「天国」の話だ。人気絶頂のアーティストが生み出した5分23秒の大曲、壮大なエンターテインメント作品が、ここまで重々しく、苦々しいことってあるのか。いたずらに希望を見出さない、どこまでもリアルな現代、そして個人の心象風景の描写である。

Mrs. GREEN APPLE「天国」Official Music Video

 歌い出しは〈もしも/僕だけの世界ならば〉という仮定のため、この人は他者とともに生きているのだろうと想像できる通り、「天国」は社会で生きる個人の心情を歌った楽曲だ。ピアノのコードとともに雑踏のような背景音が鳴るなか、大森元貴(Vo/Gt)は細い声で歌唱しており、ダブリングも相まって、心の揺れがボーカルによって表現されている。そして主人公の内省は〈貴方の事が許せない〉という結論に着地する。〈許せない〉の部分は低い音域で発声されていて、憎悪の感情が強調されている。同タイミングで藤澤涼架(Key)が鳴らしているBの音も、ピアノという楽器の最低音に程近い。

 1番での使用楽器はピアノとストリングス、BPMは60程度という楽曲を構成する要素から考えると、美しいバラードにも成り得ただろうが、Bメロではデジタルサウンドが、サビではボイスチェンジャーを通した低い声でのコーラスが重ねられていて、“美しさ”を徹底的に回避するような音作りになっている。これらは心の軋む音だろう。全体を支配するのはやはり身悶えるような感情であり、サビの歌詞は〈抱きしめてしまったら/もう最期/信じてしまった私の白さを憎むの/あなたを好きでいたあの日々が何よりも/大切で愛しくて痛くて惨め〉。憎むのは貴方の黒さではなく、私の白さ。ひいては、愛をはじめとした感情など、いっそ捨ててしまえたら楽になれるだろうに、それができないから悩み葛藤する人間の愚かさ。主人公は自責の念に駆られていて、2番に入ってからも〈心に蛆が湧いても〉〈醜悪な汚染の一部〉など強い言葉が並ぶ。

 楽曲はその後、ビートインとともにピアノやストリングスの動きにもリズムが出てくる2番Aメロ、此岸から彼岸へと想いを馳せるDメロと展開していき、〈どうすればいい?〉から始まるEメロで一気に感情を溢れさせる構成になっている。全体的にエレキギターの出番の少ない楽曲だが、Eメロではドラマティックなストリングスに比肩するレベルで若井滉斗(Gt)がフレーズを弾き倒していて、ロックギタリストとしての存在感を示している。

 2番サビを終えてからのFメロは、1~4小節ごとに転調していて、スタートはCメジャーだが最終的にGメジャーに到達する。「ケセラセラ」に代表されるように、フェーズ2以降のMrs. GREEN APPLEの楽曲は、転調とともに華やかなエンディングへと向かう構造のものが多い。今回は半音ずつキーが上がっているため、天国への階段を一段ずつ上っているようなイメージが自然と湧くだろう。しかし華やかなまま大団円とはいかず、楽曲は突如終わりを迎える。ピアノによるラストのメロディはスケール上完結しておらず、ペダルのリリースも潔い。ブツ切れになっているような印象だ。

 このラストは、様々な解釈が可能だと思う。主人公の命が事切れたことを表しているのか。あるいは、創造主(Mrs. GREEN APPLEの楽曲においては作曲者である大森)が“美しい世界”を描くことを放棄したということなのか。「天国」とテーマの近い過去の楽曲を参照すると、例えば2022年に発表された「Part of me」は、ディズニー音楽さながらのオーケストレーションによって全体が彩られているほか、〈いつかは亡くなって/誰かの一部になれなかったとしても/今日のこの倖せだけは/何にも変えられない奇跡だと/素直に思える僕が居る〉と歌われていて、主人公が孤独を抱えながらも一歩踏み出している画がイメージできた。同年リリースで、映画『ラーゲリより愛を込めて』主題歌の「Soranji」は、〈信じて欲しい。〉〈生きて欲しい。〉〈愛して欲しい。〉といったメッセージが歌われていたほか、マーチングドラムやクワイア的なコーラスもだんだん力強くなっていく構成で、明確に救いがあった。一方、「天国」には動きも救いもない。誰も彼も余裕を持てず、思いやりもリテラシーもないこの世界に疲弊しているのは、私たち生活者だけでなく、日々タイムラインを賑わせるスターである彼らも同じということだろうか。楽曲は唐突に終わるが、その分、聴いた人の心の中で余韻が響き続ける。突如足場のなくなった世界で、あなたは何に希望を見出しながら、どう生きるのか。そう問われているような気がした。

Mrs. GREEN APPLE – 05. Part of me from Studio Session Live #3
Mrs. GREEN APPLE「Soranji」Official Music Video

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