the奥歯's、本能で爆走した初ワンマンライブ 不器用だからこそかき鳴らせるパンクロックの輝き

アサベシュント(Vo/Gt)、アサベハルマ(Ba/Vo)、ジン(Dr/Cho)の3人組パンクロックバンド、the奥歯's。彼らが今年4月にリリースした2ndアルバム『光のハミング』にハートを射貫かれ、アルバムのインタビュー、5月6日の渋谷CLUB QUATTROワンマン『下を向いて歌おう~旅するニートツアー初日編~』と取材を重ねてきたが、彼らの音楽や人柄に触れるたびに「やはり最高の3人組だ!」という気持ちが自分の中で強くなっている。今も、バンドの魅力を少しでも多くの人に知ってほしいと思いながら、この文章を書いているところだ。
『下を向いて歌おう』はthe奥歯'sにとって初のワンマンライブであると同時に、8月9日まで続く全24公演のツアー『旅するニートツアー』の初日公演でもあった。この記事では演奏曲のタイトルをいくつか挙げながら、ライブの模様をレポートするため、今後の公演に参加予定の方はご注意を――という注意書きを念のため添えておくが、スタッフに確認したところ、セットリストは公演ごとに変わる予定とのこと。

それにthe奥歯'sの場合、セットリストはあってないようなものだ。例えば、本来は「トラッシュシャワー」を演奏する予定だったところで、メンバー的には違う曲をやりたい気分だったのか、「ここは“グッドバイブレーション”だろ」と言いながら、〈ゴーゴーリビドー/グッドバイブレーション〉というシャウトから始まる楽曲「男子中学三年生」を演奏し始める。シュントがMCでスベッたら、実の兄であるハルマがすかさずベースラインを弾き、「スパイキーハート」をスタートさせることで助け舟を出す。「パンク!ロック!」コールを起こしながらの「レツパン」は楽しいので2周する。彼らのライブに予定調和はない。湧き出る衝動を抑えることなく、本能のままに音楽を鳴らしている。

だから観客も感情を思いっきり爆発させられるのだ。シュントの「やりましょうか!」という呼びかけに観客が拳や歓声で応えたオープニングの時点で、オーディエンスがthe奥歯'sに大きな信頼を寄せていることが伝わってきたこの日。バンドが1曲目に選んだのは「鈴鳴メモリーズ」で、フロアの照明もつけながら歌い鳴らすことで、オーディエンスとの双方向のコミュニケーションをスタートさせた。シュントは「いっぱい練習しました。毎日スタジオ。お兄ちゃんに怒られ、ジンちゃんに慰められながらやってきました。全部取り返したい!」と意気込みながら、お前らもカマせと言わんばかりにシンガロングを煽る。さらにシュントが「わかるだろ! お前の歌だ!」と重ねると、その言葉に共鳴した観客が声を張り、シンガロングの音量がもう一段階上がった。そこにバンドのパワフルなサウンドも重なる。ものすごいエネルギーだ。

次の曲ではシュントが「ワンマンだからって体力残す算段ねえんだ!」とギターを置いてフロアに飛び込んだ。シュント曰く、ステージに出ていくと同時に「アドレナリンがヤバいヤツ、いっぱいいる」と感じて触発されたとのこと。続く「トラッシュシャワー」では、みんなで「クソ」と連呼して頭から大合唱。ジンの爆裂2ビート、波のようにうねるハルマのベースラインに乗っかってダイバーも続出だ。すると、シュントが「ズルい! お前らばっかり暴れて!」と言いながら、モーゼの海割りのような感じでフロアを割り、観客に作ってもらった道を通ってフロアの中央へ行った。

そしてシュントは、キラーチューン「スパイキーハート」を観客に囲まれながら、一緒に歌う。ちょっと不思議なこの状況をステージにいるハルマは「おもろ」と笑いながら、愛おしいものを見つめるような眼差しを向けていた。楽曲の冒頭はドラムの演奏がないため、ジンは前に出てきて、飛び跳ねまくってはしゃいでいる。ライブレポート用に事前にもらっていたセットリスト(先述の通り、その場で変わるのであまり意味を為さない)には、ほとんどの曲の備考欄に「シュントがギターを弾かなくなったり、フロアに行く可能性があります」と書いてあり笑ったが、実際にライブを観て全く誇張ではなかったことがわかり、もっと笑った。ステージもフロアもごちゃごちゃだが美しい、最高のパンクロックバンドによる、最高のライブの光景である。





















