由薫、バンドで鳴らした歓びのポップミュージック 極上のアンサンブルを届けた『Wild Nights』ツアー

終盤を前にEPと今回のツアータイトルである『Wild Nights』の由来をじっくり話してくれたのだが、音楽を本気でやることに迷いがあった時期に、冒頭にも登場したエミリー・ディキンソンの作品と存在に触れたという。1800年代、誰に読まれるでもなく書き続けた膨大な詩篇が死後に発見され、ディキンソンのやりたいこと、書きたいことを誰の目を見にすることなく残す姿勢に勇気づけられたという彼女。「だから、私もリリースされて初めて曲が生き始める、音楽は生きてるって思うんです。一曲一曲みんなとつながって、そのつながりを大事に感じながら、あと2曲歌います」と、淡々と強いロックナンバー「ツライクライ」、EP『Wild Nights』の1曲目であり、音楽を感じることに生のきらめきを見るような「Feel Like This」というスケールの大きなナンバーを締めくくりに披露してくれた。特に「Feel Like This」での地声のたくましさから、サビで突き抜けるようなハイトーンへ飛翔するレンジの広さは、歌唱力の確かさでもあるが、彼女の決意の強さも同時に感じさせてくれた。ちなみにディキンソンとテイラーは遠い親戚だとあとで知ったのだが、洋楽における歌詞のストーリーテリングという意味では、由薫をよりよく知るヒントかもしれない。

アンコールでは早くも次なる弾き語りのツアー『UTAU』も発表され、最近さらに歌うことが好きだと自覚を深める由薫が、ツアーの予告めいた形で「brighter」を弾き語りで届けてくれたのだった。海外生活で優れた文学に親しみ、日本のポップスではなかなか出会えない文体や表現を自然にアウトプットできる彼女は、これからもより深い歌詞やボーカルを生み出してくれるのではないか。それを近い距離で受け止める弾き語りツアーへの期待も自ずと高まる。


























