由薫、ワンマンライブ『After Sun』で咲かせた笑顔と未来 表現の広がりで予感させたステップアップ

由薫、ワンマンライブ『After Sun』レポ

 9月6日にリリースされたデジタルEP『Sunshade』をコンセプトとしたワンマンライブ『After Sun』。11月1日に東京・代官山UNITで開催されたこの公演のチケットはソールドアウトとなり、フロアはたくさんの観客で埋め尽くされた。バンド編成による新鮮なアレンジも交えながら幅広い曲が披露されたこのライブの模様をレポートする。

 バンドメンバーがステージ上で準備を済ませたのち、由薫のカウントで「No Stars」がスタートした。透明感に満ちた歌声は、サビに差し掛かると一気に広い世界へと突き抜けていく。観客の手拍子も加わり、会場は穏やかな一体感で包まれた。「Blueberry Pie」を歌い終えてから、彼女は笑顔を浮かべながら挨拶。「来てくれてありがとう。一夜限りのワンマンライブ。気づいたら終わっちゃってると思うから(笑)、一瞬一瞬を噛み締めてください」――そして最新EPの収録曲「Clouds」やアルバム『Brighter』の収録曲「Blue Moment」も披露されたが、メロディが哀愁を滲ませながら躍動する様が心地好い。多彩な歌の表現がオープニングの3曲ですでに示されていた。

由薫

 「今日を本当に楽しみにしてきました。一夜限りなので何も残さずに帰ろうと思うんです。新しいアレンジとかいっぱい用意してきたので、一緒に楽しんでください。どんどん盛り上がっていきましょう!」と序盤のMCで語っていたが、ライブならではのアレンジで存分に楽しませてくれた。生バンドによる臨場感に溢れるサウンドが冴え渡った「sugar」と「Swimmy」。キーボードと歌のみでスタートし、その後ほかの楽器パートも合流して豊かなアンサンブルで構築された「E Y E S」。そして、「my friend」は、遊び心が満載だった。由薫が途中で指揮者のように腕を動かして演奏をストップさせると、バンドメンバーの全身の動きも完全に静止。「デビューして2年以上経つと、こんなことができるんです。みんな、私の言うことしか聞きません(笑)」と言いつつ、イタズラでウィンドチャイムを鳴らす姿が微笑ましかった。

 ライブならではのアレンジという点では、「星月夜」も印象的だった。全編がピアノ伴奏のみで展開するなか、一心に歌い上げていた由薫。曲に込められている心情とストーリーを精緻に表現する様に胸打たれたフロアは、演奏が幕切れた瞬間、大きな拍手をステージに送っていた。そしてステージに置かれたランプシェイドが幻想的な光を放つ中で披露された「Sunshade」を経て迎えたMCタイム。彼女は想いを語った。

 「EPをリリースした頃にひまわりを貰ったり、街中でひまわりを目にすることが多かったんです。『11月にライブをする時には、ひまわりは枯れちゃってるな』って思いました。でも、お花はそれで終わりじゃなくて、種を残してくれるんですよね。自分が曲を作る過程は種を作ってるんだと思っています。種がいろいろなところに届けられて、小さい芽を出し、成長して、花を咲かせる。そこにこそ私にとっての音楽の意味があって、その花を見たいんです。今日、曲たちに花を咲かせたいという気持ちでライブを計画しました。それが『After Sun』。ひまわりが枯れて、でも種があって、その種がみんなのなかで咲くということが自分にとっての音楽です」――彼女の音楽活動の本質を伝えてくれる言葉だった。

由薫

 「今回のEPで自分なりに考えに整理がつきました。曲を作るというのは、前に進むということ。24年間を振り返った時に、たくさん愛を受けていることに気づけました。みんなもたくさん愛を受けてここに立ってると考えながら聴いてくれたら嬉しいです」という言葉が添えられた「勿忘草」は、穏やかな温もりで包んでくれた。心を動かされている観客の様子が周囲から自ずと伝わってくる。そして歌い終えた後、アコースティックギターを手にした由薫は、再び想いを語った。「ミュージシャンとしていちばん幸せなのは、蒔いた種が多くの人に届いて、たくさん咲くことだと思うんですけど、それだけじゃなくて。その種が自分自身のなかで咲くこともあるんです。私は15歳くらいからギターを持って歌っていました。10代の時に書いた曲が大人になった自分に何かを語りかけてくれることもあります。デビュー前にライブハウスでひとりで歌っていた曲をやりたいと思います」。そうして彼女の弾き語りからスタートした「風」は、歌声が柔らかな光を放つかのようだった。続いて届けられた「ヘッドホン」も、ギターを弾きながら歌う表情が穏やかで明るい。バンドメンバーたちと時折アイコンタクトを取りながら、サウンドを活き活きと躍動させていた。

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