梟note、ストーリーに投影することで開けた表現の可能性 ライブ経験から芽生えた変化も語る
「弱酸性」名義で投稿する歌ってみた動画がネット上で人気を集め、昨年「オボツカナシ」にてメジャーデビューした梟note。今年は2月に「patience」、4月に「私欲」を発表し、梟noteとしてのデビュー日である5月5日には「女王」をリリース。歌い手としてだけでなく、シンガーソングライターとしての実力を音楽シーンに見せつけた。
その後も、8月には「彩られた理想へ」(ゲーム『オルタナヴェルト -青の祓魔師 外伝-』主題歌)を発表、10月には「Brave one」(TVアニメ『齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定season2』オープニングテーマ)と「君の背中」(アニメ『POKÉTOON』シリーズ最新作「ゴーゴートに乗って」エンディング楽曲)と立て続けにタイアップを実現し、そのソングライティングの注目度は上昇中だ。
楽曲制作と並行してライブ活動にも本腰を入れ始めた。5月には初のワンマンライブ『梟note 1st Live – Diluculo』、その数カ月後には2度目のワンマンライブ『梟note 2nd Live - Virtus』を開催。着実に広がりを見せる梟note、その胸中に迫った。(荻原梓)
思い出の作品に音楽で携わった手応え
ーー今年は楽曲制作やライブなど精力的に活動していた印象です。この1年をどう振り返りますか?
梟note:今年は梟noteとしてたくさんのオリジナル楽曲を制作することができましたし、タイアップの作品にも携わることができて、本当に充実した幸せな1年間を過ごせていたなと心から思っています。特に8月に開催した2度目のワンマンライブの直前の期間は、ライブに向けてオリジナル楽曲を制作しており、かなり煮詰まってたんですが、いろんな人にアドバイスをいただくことで曲作りへのアプローチの部分で刺激を受けた期間でした。今までは自分一人で完結していたものが、たくさんの人の意見を聞くことで新しいアイデアが浮かんだり、自分の中で新しい曲の作り方みたいなものを学ぶことができた1年だったと思います。
ーーどうやってその煮詰まってた期間から抜け出せたんでしょうか?
梟note:なるべく自分が歌いやすいメロディや、そのメロディに自然に乗れるリズムを考えるようにしました。そこから自分が課題としている歌詞について、周りの方々の意見をいただいたり、いろんな作品を観たり、他のアーティストさんの音楽を聴いたりして、一から勉強し直したんです。そういったたくさんの刺激の中で少しずつ歌詞の書き方を形作っていって、なんとか完成に辿り着いた感じです。
ーーここまで「彩られた理想へ」「Brave one」「君の背中」と連続でタイアップできたことについてはどうですか?
梟note:まずタイアップの作品をいただけたことがすごく嬉しいですし、特に『ポケモン』や『青の祓魔師』は自分が小さい頃から観ていた作品だったので、そういう思い出のある作品に自分の楽曲が使われることに対しての喜びは大きかったです。
ーータイアップ楽曲の制作ではどんなことを心掛けていますか?
梟note:作品の中で一番印象に残った部分や気持ちが動いた部分、「ここは歌詞にしたいな」と感じた部分を切り取りつつ、伝えたいことの根本を崩さずに自分の描く世界観にうまく組み込めたらいいなと思って制作しています。
ーー普段の制作とはどんな違いがありますか?
梟note:自分が今まで制作してきたオリジナル楽曲では、歌詞が暗いのに曲が明るいとか、歌詞とメロディのギャップみたいなものを作って、それを作品にできたらと思っていました。たとえば「私欲」や「patience」は自分の中の遊び心が出てる楽曲です。逆にタイアップの楽曲では作品に寄り添ったものを作りたいと思い、ストーリーの中で自分の気持ちが動いた部分を楽曲に組み込んで、作品の一部になれるようにという気持ちで制作しています。
ーー前回インタビューさせていただいた時に「どれも僕は体験したことのないオリジナルのストーリー」「梟noteの曲は一つのストーリーとして楽しんでほしい」ということを話してましたよね(※1)。なのでタイアップだとどういう曲を作るのか気になってたんですけど、どれも梟noteさんの人間性や人柄が色濃く出てる印象を受けたんです。
梟note:ありがとうございます。タイアップ作品の物語を読むにつれて、「このキャラクターの気持ち、よくわかるな」と登場人物に共感する部分がたくさん出てくるんです。そういった自分の中で感じたものを楽曲に落とし込みたいので、それが曲にも滲み出たのかなと思います。
「理解されなくても好きなものは、軸として持っておきたい」
ーーそういう意味では梟noteさんの人柄を楽曲から一番感じ取れたのが「Brave one」でした。この曲からは梟noteさんの「強くなりたい」という思いがひしひしと伝わってくるので、『草食ドラゴン』の物語と梟noteさんが深く共鳴したんだろうなと想像していました。
梟note:『草食ドラゴン』は弱い自分が少しずつ勇気を持って、守りたい人たちを命を懸けて守っていくというストーリーになっていて。自分も変わりたいと思っててもどうしても変えられていない部分ばかりなので、その気持ちを楽曲にぶつけたいなと思い、前向きで力強い楽曲を制作しました。歌詞は自分の弱さに立ち向かっていくというものなんですが、メロディ自体はアップテンポでダークなものというのを意識して。ただ暗いだけじゃなくて、ちゃんと勇気を与えられるような音作りを目指しました。
ーーそのダークさの話と繋がるかもしれないですけど、この曲の〈何も出来やしない〉の部分の歌い方はすごく特徴的ですよね。歌い手出身の梟noteさんならではのテクニックを感じました。
梟note:今挙げてくださった部分にも当てはまるのですが、この曲では全体的に少し苦しい感情を表現したいという思いもありました。落ちサビのところでは剥き出しの感情をしっかり歌で表現したいと思い、弱々しくはないけど、なんとなく苦しい感じを意識して歌っています。レコーディングも楽しくて、いろんなアプローチを試しながら、普段意識していない発声や発音まで改めて見直す期間になりました。
ーー時系列が前後しますが、「彩られた理想へ」はどうでしょう?
梟note:とあるキャラクターが悪魔と共存できる争いのない平和な世界を目指しているんですけど、その理想は誰からも理解されないんです。なので「彩られた理想へ」は、そういった世界を作るために心を奮い起こし立ち向かっていく力強い楽曲を作ろうと思って制作しました。
ーー梟noteさん自身は誰にも理解されない経験はありますか?
梟note:誰にも理解されてないというか、持っておきたいこだわりはあります。他の人はやってないけど自分は好きだと思う歌い方とか、自分は好きだけどあまり万人受けしないだろう音楽とか、そういうものは誰にも理解されなくても好きでいたい。自分の好きなものはこれからの制作にも影響してくると思うので、軸として持っておきたいですし、うまく楽曲に昇華して伝えていければいいなと思います。
ーーこの曲はサビの伸びやかな歌声が印象的です。
梟note:最初は霧で曇ったイメージで、そこから霧が晴れて華やかな空と涼しい風が吹くような、一気に明るくなる楽曲を作りたいと思っていて。最初は暗めに歌って、少しずつ理想に近づいていくような歌い方になりました。サビではすごく伸びやかな高音が続いて、ラスサビは転調してさらに高音が響くような感じで力強く歌っています。