fhánaは喪失を超え、“良質なポップス”を体現し続けるーー『The Look of Life』全曲&MVレビュー

fhána『The Look of Life』レビュー

 アルバムに収録される楽曲すべてにMVを制作するーー。そう聞いたとき、アルバムに対する印象はどう変化するだろうか。筆者なら間違いなく「相当な自信があるのだろう」と思う。ましてや新規収録楽曲が多数のフルアルバムならなおさらだ。そうして届けられたfhánaの5thフルアルバム『The Look of Life』は、その自信に相応しいポップで爽やかでハートウォーミングな“巧い”作品だった。そんな『The Look of Life』について、本稿ではMVと楽曲にフォーカスを当てながら全曲レビューしたい。

01. Introduction (life is coming back)

 楽曲自体には街や制作風景のフィールドレコーディングの音も入っており、サウンドを聴くだけでこの作品が「日常」に焦点を当てるためのものだと理解させてくれる。そこからKevin Mitsunagaによる音声や硬質なピアノの音色をカットアップが炸裂する展開を経て、イントロダクションはその役割を終える。楽曲タイトルは佐藤純一が敬愛し、fhánaでも時折リファレンスの跡を見ることのできる小沢健二「ラブリー」のオマージュだろう。コロナ禍を経て、日常を取り戻した私たちにぴったりのフレーズだ。

02. Look of Life(Music Video Director:高前田 涼斗)

fhána - Look of Life - Music Video

 アルバム表題曲であり、アニソン的ともいえる変則的な構成を用いがちなfhánaにとっては珍しい、王道のポップス構成といえる楽曲。楽曲は鮮やかで明るい印象を受けるが、歌詞は喪失を経験しながらも先へと進む“君と僕”の姿が描かれている。10周年イヤーを終え、レーベル移籍や事務所設立、メンバー脱退など、様々な別れを経験したバンドの姿にも重ね合わせることができるこの曲を表題にするというのは、三人にとってもある種の覚悟のあらわれでもあるだろう。

 MVはfhánaのレーベルでもある日本コロムビアが手がけるクリエイティブチーム“MAKES”に所属する若き映像作家・モーショングラフィックデザイナーの高前田涼斗が監督を務めた。後述するが、冒頭の舞台となっている渋谷のスクランブル交差点は、アルバム内の別楽曲ともリンクしており、このような仕掛けを作ることができるのも全曲でMVを制作することのメリットといえる。

 映像は街の風景に加え、アルバム制作のドキュメンタリー風の内容で構成されているが、作品全体のコンセプトを表すように人々の「生活の風景」とfhánaのメンバーにとっての「アーティストとしての生活=制作の風景」を映し出しており、先述した「進み続けること=アーティストとしての生活を、歩みを止めないこと」の決意を視覚的にも肯定する内容に感じることができた。

03. city dream city

 2曲目とは打って変わって、Kevin Mitsunagaによるジャージークラブ風のビートが目立つ。コードはアーバンでマイナーなものをチョイスしているのだが、towanaの歌唱によって最終的な仕上がりはポップなものになっているのが面白い。林 英樹による歌詞もビートやメロディに寄り添い切ったフレーズが頻出しており、ノリや口当たりを重視したような印象。fhánaにしては珍しく“一筆書き”のような潔さを感じた。

04. Spiral(Music Video Director:わさお)

fhána - Spiral - Music Video

 本作唯一の縦型MVを取り入れた楽曲。メンバーが川沿いを歩く様子にイラストを挟みながら、手書き風の文字が流れるリリックビデオ形式に仕上がっているのだが、このロケーションはおそらく京都の鴨川。京都・鴨川とfhánaといえば、デビュー曲であるTVアニメ『有頂天家族』や『有頂天家族2』のエンディング主題歌「ケセラセラ」や「ムーンリバー」など深い縁がある。そして「Spiral」のサウンドには明らかにその2曲と近しい筆致が残っている。螺旋・巡り巡るものを題材にした楽曲で京都やKevin Mitsunagaのラップ、towanaの作詞など、過去にfhánaがトライしてきたさまざまなモチーフがわかりやすく使われているのは、fhánaの「2周目」を象徴するかのようにも思える。

05. 天使たちの歌(Music Video Director:高前田 涼斗)

fhána - 天使たちの歌 - Music Video (TVアニメ『義妹生活』オープニング主題歌)

 「Look of Life」と同じく渋谷のスクランブル交差点が舞台になっているMV。楽曲は『義妹生活。』のエンディング主題歌として制作されており、ピアノイントロやコードの展開、サビメロにリズムパターンの構成、ストリングスの使い方など、fhánaの楽曲における“らしさ”を散りばめた、彼らにとっての“王道”だ。どこまで意図的かは分かりかねるが、タイアップ曲として書き下ろしたこの楽曲こそが一番直接的に日常を描いており、アルバムコンセプトの起点にも感じたため、表題曲とこの曲、後述する「風になって」がアルバムの中核を成しているといってもいいだろう。

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