fhánaと『小林さんちのメイドラゴン』を結びつける関係とは? 主題歌「愛のシュプリーム!」に注がれた4人の感情

fhánaと『メイドラゴン』を結びつける関係

 2017年のアニメ『小林さんちのメイドラゴン』から約4年、第2期となる『小林さんちのメイドラゴンS』がこの7月からオンエア。そのオープニングテーマ「愛のシュプリーム!」を表題に掲げたfhánaのニューシングルが、本日7月14日にリリースされた。

 第1期オープニングテーマ「青空のラプソディ」は、単なるアニメ主題歌という枠を超え、fhánaの名を世界にまで届けた、大きなターニングポイントとなった楽曲だ。そして再び交わった『小林さんちのメイドラゴン』とfhánaが生み出した「愛のシュプリーム!」もまた、両者を新しい地平へと連れて行ってくれるに違いない。

 今回リアルサウンドではfhánaの4人にインタビューを行い、「愛のシュプリーム!」を含むニューシングルの制作について話を聞いた。この4年の間に生じた、あまりにも多くの出来事、それらを経て届けられた今作に込められているfhánaの思いとは?(編集部)

『メイドラゴン』とfhánaは単なる作品とアーティストの関係ではない

ーーfhánaにとって『小林さんちのメイドラゴン』は、タイアップしたアニメの1つ、という以上に大きな意味を持っていると思います。

佐藤純一(以下、佐藤):僕は個人的にもいちファンとして京都アニメーションの作品がすごく好きだったので『メイドラゴン』1期のOPを担当させてもらえるとなった時はすごく嬉しかったですし、「青空のラプソディ」でたくさんの人に知ってもらったり、海外でのライブにもたくさん呼んでもらえたりと、fhánaがもう1つ大きく広がるきっかけとなった作品でした。音楽的にも「青空のラプソディ」はアニソンシーンに一石を投じてみようと思って作った曲だったので、こういう風に受け入れられて広がったのはすごく嬉しかったです。

kevin mitsunaga(以下、kevin):海外ではfhánaじゃなくて「〈chu chu yeah!〉の人だ!」って声をかけられるくらいですし、ライブで踊ることが多い僕は、寝ていても踊れるくらい体に染み付いた曲でもあるので、個人的な思い入れも強いです。

yuxuki waga(以下、yuxuki):『メイドラゴン』は僕らにとって“いとこ”みたいな距離感だと思っています。「青空のラプソディ」はfhánaの代表曲といえばそうかもしれないけど、そういう気負いもないくらい自然にそばにいる感じの曲になりましたね。

towana:私にとっては、大好きだけど、思うたびに痛みを感じずにはいられない、それでも大事な作品です。前回『メイドラゴン』に書いた「青空のラプソディ」がfhánaの代表曲といえるくらいたくさんの人に知っていただいて、アニメとしても素晴らしい出来のものだったんですが、そうじゃない色々なことがあって、それ以上の意味を持つことになった作品でもあります。

fhána / 青空のラプソディ - MUSIC VIDEO

ーーtowanaさんにも少しお話しいただきましたが、この数年で様々なことがあり、『小林さんちのメイドラゴン』2期の制作がストップしてしまいました。「愛のシュプリーム!」も、元は2019年に作られた楽曲だったそうですね。

towana:「愛のシュプリーム!」は紆余曲折あってようやく世に出ることができました。コロナの感染拡大もあって、明日がどうなるかわからない日々に苦しんだ記憶が鮮明に刻まれた曲にもなっているので、嬉しいという言葉では表せない、万感の思いなんです。

佐藤:OKをいただいていたのは、あくまで楽曲の1番を中心にしたTVサイズのみで。色々あってから2番以降を書いたので、結果的に様々な感情が入り混じった壮大な楽曲になりました。そういえば、この取材の前に、監督から楽曲を作るにあたっていただいたメモが見つかったんですよ。そこにはこう書いてあって。

「今作は人との距離感の結び直しがテーマで、お馴染みのキャラ同士の関係、新しいキャラとの関係にフォーカスが当たる。前作と同じく断絶の壁を乗り越えることが目的ではなく、壁を壁として認めつつ、それでも一緒にいることはできるという姿を描きます。前作と同じく異文化コミュニケーションを大事にする、お互いの世界の文化に初めて触れるところを丁寧に描く。コメディでもシリアスでもここが肝。原作を踏まえ、アニメではより具体的詳細にしていく感じ」と。

ーー「断絶の壁を越えるのではなく、壁を壁として認める」というのは、fhánaが作ってきた曲やアルバムで表現してきた価値観とマッチしていると思い、少し鳥肌が立ちました。

佐藤:「虹を編めたら」や「Relief」、2ndアルバムの『What a Wonderful World Line』あたりから反復しているテーマでしたね。

ーーだからこそ、いちアニメ作品と主題歌アーティストの関係性ではないシナジーが生まれて、アニメの外側まで届いたのかもしれません。

佐藤:「青空のラプソディ」を作るにあたって原作を読んだ際にも、同じようなことを思いました。これはただのドタバタコメディではなく、異文化との断絶やコミュニケーション、愛と孤独についての作品なんだなと。それは作詞をしてくれた林(英樹)くんも同じ気持ちだったと思いますし、ちょっと正確には覚えていないですが、アニメ放送時に原作のクール教信者さんが「アニメの主題歌だから作品とリンクした歌詞、リンクしてるのがそれは普通のことなんだろうけど、こんなに深くちゃんと作品のことを理解してリンクした歌詞でびっくりした」というようなことを深夜にツイートしてくださっていて、それがすごく印象に残ってるんです。

ーーなるほど。「愛のシュプリーム!」については本当に色々と掘り下げたい点があるのですが、一番目立つのは表題曲でkevinさんがラップをしているという事実だと思います。それも文脈を辿っていくと、起点は「青空のラプソディ」だったのかなと考えていて。

佐藤:「青空のラプソディ」はアルバム『LIFE』の時期の小沢健二さんのサウンドに影響を受けて作ったもので、その流れからツアーで「今夜はブギー・バック」のカバーを披露して、そこでkevinがラップをしたことから全てが始まっていますから。

ーーそこから『“Sound of Scene #01”curated by fhána』で「reaching for the cities」にkevinさんのラップパートを追加して披露。シングル『僕を見つけて』のカップリング「Unplugged」でtowanaさんとkevinさん、2人のラップ曲が誕生し、オンラインライブでも見どころの1つになっていた「kevinラッパー化計画」がついに表題曲まできたと。

kevin:シングル表題&タイアップ曲というのはさすがに身構えましたけどね(笑)。期待してくれていること自体はすごく嬉しいんですが、武者震いは止まらなかったです。

ーー今回その布陣で臨むというのは、fhánaにとっては1つの挑戦だと思うんです。ある種の勝負曲といえる今回のタイミングで、アクセルをベタ踏みした意図は?

佐藤:「愛のシュプリーム!」の前に実は別の曲ーーラップ曲でもないものを作っていて、それはボツになっているんです。その時に「青空のラプソディ」でも攻めの姿勢を要求されたことを思い出して、今回も変わったことをやりたいなと思った時に、それならラップ曲でkevinとtowanaの掛け合いがしたいと思って作っていきました。勝負どころでkevinを投入というわけではなくて、「じゃあkevinのラップ乗せるか」くらいのラフさです(笑)。でも、その選択を自然に出来たのは、kevinが成長していたからこそですけどね。

ーーこれまでのfhánaのラップ曲は、テンポがゆっくりめのものが多かった印象ですが、今回は同じラップにしても譜割りも細かいしリズムも変則的だったので、難易度的には上がっていたり?

towana:ラップ自体は難しいとは感じなくて、楽しく可愛く明るくやってみたら、時間はかかりましたがそこまで苦労はしませんでした。それよりも、レコーディング自体が2020年の4月1日ーー緊急事態宣言が出る少し前で。あの頃の空気感って今よりもっと不穏な感じで、この先どうなっていくんだっていう空気のなかでレコーディングをしなきゃいけないという難しさがあったことを覚えています。

kevin:テンポによる難しさはあまり感じていないんですが、ニュアンスの付け方についてはかなり長時間試行錯誤しました。楽譜で表せない部分を佐藤さんとみんなで相談しながら1行1行パズルみたいに作り込んでいくという作業を地道にやりました。佐藤さんにはスチャダラパーのBoseさんを降臨させて歌ってみてくれと言われたりして。

佐藤:基本的に僕の中にあるラップって、スチャダラパーやかせきさいだぁ、TOKYO No.1 SOUL SETのBIKKEさんのような、1990年代の文系のユルいラップなんですよ。だから必然的にそういうディレクションになっていきました。

fhána - 愛のシュプリーム!(TVアニメ『小林さんちのメイドラゴンS』OP主題歌) - Official Music Video

ーーそんなユルいラップと、バックトラックのタイトさの差異が面白かったです。

佐藤:たしかに、演奏はすごくタイトなうえに速いですね。

ーー「青空のラプソディ」は“フィリーソウル”を1つのキーワードに作り上げていきましたが、「愛のシュプリーム!」はディスコ・ファンク・ラップ・ゴスペルを融合させて倍に近いテンポでハードコアにまとめるという、ミクスチャー的な面白さを感じました。個人的にはアニソンでありブラックミュージックでありラップであるという要素も含め、「もってけ!セーラーふく」っぽさもあると思ったり。

佐藤:作っている時はまったく別のものをイメージしていましたが、言われてみれば「もってけ!セーラーふく」との共通項は多いかもしれませんね。インスピレーション元でいえば、まず挙げられるのはスチャダラパーの「Welcome to Ponkickies (GET UP AND DANCE)」と、その元の曲である「GET UP AND DANCE」だと思います。

ーー〈パーパラパッパパラー〉のあの曲ですね。

佐藤:はい。そことサビの歌は全く別物として考えていて。サビを作ったあと、その後の盛り上がりの展開は悩み抜いてこうなりました。「青空のラプソディ」は2番サビ後のDメロから、Eパートの間奏、ラストサビまで目まぐるしく展開するうえに、カタルシスもある構成になっているので、それに匹敵する仕掛けを作らなければと思って。〈さあ歌おう! 讃美歌を~〉の部分は「青空のラプソディ」でいうところの〈chu chu yeah! 粋なビート弾く僕ら!〉の部分にあたるんですけど、もう少し緊張感も出ていて、〈breakin’!〉のところから楽しい方向にブレイクするようにしました。

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