こっちのけんと、辿り着いた“2度目”の『紅白歌合戦』 赤裸々に振り返る音楽人生と激動の2024年

こっちのけんと、2度目の『紅白』への想い

 2024年もTikTokをきっかけに新たな才能たちが発見され、驚くべきスピードでJ-POPシーンを駆け上がっていった。そのひとりが今年5月リリースの「はいよろこんで」で大ブレイクを果たし、“ギリギリダンス”で日本中を席巻したこっちのけんとだ。

 リアルサウンドでは、この激動の2024年を振り返ってもらうべく、こっちのけんとにインタビューを行った。音楽人生のスタートから「はいよろこんで」を生み出すまでの苦悩、突然のブレイクに対する率直な感想、初出場を決めた『紅白歌合戦』への想いまで、赤裸々に語る言葉からは、彼の生き方や人間性がありありと浮かび上がってきた。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

「はいよろこんで」でのブレイクで感じた世界の優しさ

こっちのけんと インタビュー(撮影=林将平)

ーー2024年はこっちのけんとさんにとって激動の1年だったと思いますが、ご自身ではどのような1年だったと思いますか?

こっちのけんと:全部が変わりすぎちゃいました。「人生が変わった1年」というよりは、「変わりすぎちゃった1年」という感じですね。

ーー“ちゃった”というのはどういうところから?

こっちのけんと:いろいろなフェスやイベントに出るようになって、その2、3年後に……みたいに考えていたようなことが、「はいよろこんで」のリリースを機に、この1年に全部収まってしまったという感覚で。早すぎて、まだ実感もできてないことが多いです。

ーー少し恐怖心も?

こっちのけんと:そうですね。むしろ恐怖心のほうが大きいです。「これは自分の実力だ」と思う瞬間もあれば、そうは思わないことも結構多くて。ずっと疑心暗鬼なんです。

ーー「はいよろこんで」はこっちのけんとさんの名前を一気に広めた1曲ですが、できたときから「これはいけるぞ」という手応えはあったのでしょうか?

こっちのけんと:自信はありましたけど、みんなに届くかどうか不安な部分も多くありました。でも、この曲のMVの絵コンテがかねひさ和哉さんから届いたときに、「これは広まるだろうな」と思いました。今まで作ってきた作品の中でいちばん強いものができたと確信したんです。とはいえ、ここまで(多くの人に届く)とは思いませんでしたが。

はいよろこんで / こっちのけんと MV

ーー絵コンテを見て、この曲の持つ力に気づいたと。

こっちのけんと:そうですね。

ーーこの曲の持つ力をもう少し掘り下げて伺いたいのですが、作り方や込めた思いはこれまでの楽曲と同じだったのでしょうか?

こっちのけんと:(これまでの楽曲と)作り方自体は一緒だったんですけど、何が違ったのかというと……「死ぬな!」(2022年12月リリース)と「はいよろこんで」は、作る直前、ものすごいうつ状態だったんですよね。そうだ、それがほかの曲とは違った気がします。

死ぬな! / こっちのけんと MV

ーー差し支えない範囲で、そのときのことを振り返ってもらってもいいでしょうか?

こっちのけんと:2023年の8月くらいから何も手につかなくなっちゃって、2024年の1月はまるまる、家族とも連絡ができない状態でした。本当にずっと布団のなかにいて。2月に結婚したんですが、当時は自分の精神状態がわからなすぎて、もしかしたら命を絶ってしまうかもしれない状態だった。だったら、その前に籍を入れておけば、いちばん好きな人――つまり妻ですけど――がひとりぼっちにならないと思ったんです。何かあったら、僕の家族がなんとかしてくれるだろうと。そういう理由で籍を入れました。

ーーそうだったんですね。

こっちのけんと:その時期に、病院の先生が「気分が沈んだときに、どうして沈んでいるかが多少なりとも見えていたら楽になるよ」と教えてくれて、自分は今、何がしんどいかをメモしていたんです。それを曲にしたのが「はいよろこんで」です。そういう意味では、これまで作ってきた曲とは違いますね。

ーーそれを曲にするというのは、セラピー的な意味もあったのでしょうか? それとも、思い出すとちょっと苦しい?

こっちのけんと:苦しくはあったんですけど……。それこそ「死ぬな!」も、作る前にうつの時期があって、その時の気持ちを曲にしたんです。そしたら皆さんが曲を受け入れてくれた。そのときに「僕のネガティブな部分を受け入れてくれる人が世の中にいるんだ」ということを知って。だから「はいよろこんで」も、この経験を曲にしてみてもいいんじゃないかと思って作れたところがあると思います。

ーー音楽が、こっちのけんとさんを肯定してくれる場所だったと。

こっちのけんと:そうですね。自分のためにもなるし、それが人のためにもなるんだと思ったら作れました。

こっちのけんと インタビュー(撮影=林将平)

ーー「はいよろこんで」は、ダンス動画がTikTokで話題になったことも楽曲が大きく広まった要因のひとつです。曲を作る際、“踊れる”ということも意識していたんでしょうか?

こっちのけんと:はい。内容が暗いからこそ、明るく伝えたいと思っていて。「死ぬな!」のときもそうだったんですけど、死にたいと思っている人って、友達や家族から「この曲を聴きな」って曲を教えられたとしても、たぶん聴かないんですよ。少なくとも僕だったら絶対に聴かないし、なんならうざったいと思っちゃう。でも、TikTokとか今の縦型動画って、自分が選んでいなくても勝手に流れてくるじゃないですか。僕の楽曲はそういう出会いと相性がいいなと思っていて。悩んでいる人が不意に出会って、内容を知って、自分で考えるようになったらいい方向に行くんじゃないかと思いました。そのためにはどういう曲がいいかな、と考えて作ったところはあります。

ーーこの曲が必要な人のところに届くために。

こっちのけんと:はい。

@suppokopeppoko

@Mrs. GREEN APPLE さんとギリギリダンス!ギリギリの場所で踊らせてしまってすみません🙇ありがとうございました!! #MrsGREENAPPLE さん#ライラック #ミュージックステーション #ギリギリダンス #はいよろこんで #こっちのけんと #ダンス #歌ってみた #love #踊ってみた

♬ はいよろこんで - Kocchi no Kento

ーー今回は歌詞用とは関係なくメモしていたものを歌詞にしていたということですが、普段は歌詞のためにメモをしておくタイプですか?

こっちのけんと:日々の感じたことや、映画やアニメを観て、「うわ、今の言い回しすごい!」と思ったことはスマホでメモっています。喩えるなら、普段作る曲は、市場に行って食材を買って料理をして作ったもので、「はいよろこんで」と「死ぬな!」は、自分がガーデニングで育てたジャガイモと、自分が牛から絞ったミルクで作ったバターからできたじゃがバタみたいな。

ーーそういう曲がたくさんの人に届いて広まっていると考えると、優しい世の中ですね。

こっちのけんと:僕もそう思いました。そういう意味ではだいぶ希望を持てたというか。もちろん優しすぎても良くないとは思うんですけど、とにかく優しい世の中だなって。

模索した自分の個性「唯一負けるとしたらR-指定さんだけじゃないかなって(笑)」

こっちのけんと インタビュー(撮影=林将平)

ーーこっちのけんとさんの音楽との出会いは、幼い頃に車のなかで流れていたフォークソングで、大学生ではアカペラサークルに入ったという経歴だそうですが、そこから今の音楽が生まれるのが少し不思議で。

こっちのけんと:ああ、確かに。僕の音楽性に大きな影響を与えたと思うのは、アカペラサークルでカバーしていたディズニーソングです。僕の曲にストーリー性があったり、セリフっぽい歌詞が入っていたりするのは完全にそこからの影響で。あとは、コーラスやハモリがめちゃくちゃ多いのもアカペラを経ているからかなと思います。

ーーなるほど。

こっちのけんと:サークル時代はリードボーカルを取ることが多かったのですが、2番の歌詞が全然覚えられなかったんです。だけど、ディズニーソングの2番の歌詞は、気づいたら覚えていて。それってたぶん自然な流れの歌詞だからなんですよね。だから僕もオリジナルソングを作るときに、ディズニーの曲みたいにストーリーをつけたり、繰り返しを使ったりしていきたいなと思って。そこが原点だと思います。

ーーディズニーソングに出会ったのはアカペラサークルに入ってからですか?

こっちのけんと:アカペラサークルに入ってからです。僕は「歌えれば何でもいい」と思ってアカペラサークルに入ったので、グループのメンバーに「ディズニーソングのカバーをやりたい」と言われて、そこからディズニー作品を観たり、みんなで東京ディズニーランドや東京ディズニーシーに行ってキャラクターを見たりして。自分のなかの空っぽのスペースに入ってきたので、僕のなかでディズニーの存在ってすごく大きいんですよね。

【アカペラ】ディズニーソングメドレー / THE FIRST TAKE

ーー「歌えれば何でもいい」と思ってアカペラサークルに入ったとのことですが、歌いたかったのはどうしてですか?

こっちのけんと:歌うことが好きだったから。それだけですね。両親にも歌だけは褒められていて、なんとなく自信はあったし、「なんでもうまく歌ってみせるぜ」という気持ちがありました。

ーーその自信はサークルに入っても揺らがなかったですか?

こっちのけんと:はい、うまいほうではあったと思います。でも、うまい人は周りにたくさんいて。自分はオールラウンダーだと思うんですけど、逆に「この曲がいちばんうまいね」みたいなものはありませんでした。先輩や同期のなかには「バラードならこの人」「米津玄師さんを歌うならこの人」みたいな人がいて、そういう人の間を縫うようにリードボーカルを取るという感じで。ずっとそこから抜け出したかったんです。「自分だけにしか歌えない曲って何だろう」と考えて、そこで見つけたのがCreepy Nutsさんでした。Creepy Nutsさんの歌唱の仕方だったら、たぶん誰にも負けないと思いました。唯一負けるとしたらR-指定さんだけじゃないかなって(笑)。だから、オリジナル曲を作るときにも、それを活かした曲を作るようになっていったんだと思います。

【声だけ】Creepy Nuts - Bling-Bang-Bang-Born

ーーご自身の得意なものを積み重ねてここにいらっしゃるんですね。

こっちのけんと:結局、それがいちばん気楽なんですよね。(歩くより)泳ぐほうが得意だから泳ぐわ、みたいな。

ーー実際、そうして作ったものが多くの人に受け入れられてさらに自信がついて。

こっちのけんと:でも……自信を持つのがすごく苦手で。その瞬間瞬間は自信あるんですよ。たとえば、「はいよろこんで」のイントロから最初の〈『はい喜んで』〉まではたぶん世界一自信がある。だけど、徐々に自信がなくなっていくんです。たぶん聴いている人も、そこがいちばんピークで、そのあとはじんわり落ち着いていくじゃないですか。だからもっと頑張らないとなって。

ーーその考え方は、苦しくもありそうですが、向上心にもつながっているんでしょうね。

こっちのけんと:そうですね。この考え方に関しては、やっぱり兄がいるということが影響していると思っていて。兄が菅田将暉かどうかは別に関係なくて、「兄がいる」ということに僕はプレッシャーを感じている。だからそのぶん、人よりも頑張れてきたのかなと思います。

ーー「お兄さんに勝ちたい」という気持ちが、こっちのけんとさんを強くした?

こっちのけんと:勝ちたいというか、「この人の弟になりたい」という気持ちですかね。千原ジュニアさんもそうですし、ゲームでも“○○Jr.”って強いんですよ。でも、そのJr.たちもめっちゃ努力して強くなっている。だから自分もそうなりたくて、ハードルを上げていたんだと思います。そう考えると、兄がすごければすごいほど、僕は強くなっていくんだろうなと思いますね。

こっちのけんと インタビュー(撮影=林将平)

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