Mrs. GREEN APPLE、Official髭男dism、こっちのけんと……“レコーディング映像”から見えるプロの仕事
リスナーである我々は、アーティストがリリースした作品を聴いて、ワクワクしたり感動したりするわけだが、当然ながら、作品が形になるまでには様々な試行錯誤が行われる。とはいえ、「リリースするためにレコーディングというものを行っていることは知っている。でも、それがどういうものかはあまりよく知らない」というリスナーも中にはいるのではないだろうか。
近年、その部分を逆手にとって、楽曲が完成するまでのレコーディングの様子を意図的に動画化して、リスナーと共有するケースが増えてきた。本稿では、いくつかの楽曲をピックアップしながら、レコーディングを行う中で楽曲がどのように変化していき、どのような試行錯誤の果てに、完成に行き着いているのかを紹介してみたい。
Official髭男dism「Sharon」
まず最初に紹介するのは、Official髭男dism「Sharon」。この楽曲は美しいメロディと、鍵盤が軸になったOfficial髭男dismらしい優しいバンドアレンジが魅力の楽曲である。メロディ、サウンド、ボーカル、歌詞……全ての要素において隙がなく、完成度の高い楽曲になっているが、一体どういう試行錯誤の果てに完成に行き着いたのだろうか。動画の冒頭、藤原聡(Vo/Pf)がドラムのサウンドについて「生々しいサウンドではなく、電子的なサウンドの方が良いのでは?」という意見を表明する映像が差し込まれる。楽曲のイメージを頭に描きながら、AとB、どちらの選択がより楽曲に映えるのかということを、時に感覚的な言葉で、時に専門的な言葉で、チームとやり取りしながら、複数のアプローチを試していく様子が映し出される。他のバンドメンバーも、完成形の感覚を共有しながら様々な楽器アプローチを試して、納得のいくテイクに辿り着くまでの様子を確認することができる。最初は少し躍動感のあったこの楽曲は、レコーディングの中である種の丸さを獲得していき、優しい印象をまとうようになっていくのだった。映像の最後では、この歌は自分の体験がもとになっているという藤原の言葉のカットが挿入されており、「Sharon」に込められたメッセージを堪能することができる。
Mrs. GREEN APPLE「ナハトムジーク」
Mrs. GREEN APPLE「ナハトムジーク」も同様に、レコーディングの風景が公開されている。この動画では、まず大森元貴(Vo/Gt)が楽曲のイメージや込めた想い、コンセプトや世界観をバンドメンバーも含めたチーム全体に共有しているシーンから始まる。曰く、“夜”というのがひとつのテーマになっているという話があった上で、サビのカタルシス感や開けている感じという楽曲構成のイメージにまで話を広げていく。さらには「ずっと時間経過のない世界観なんだよね」と話を展開し、構成の話と歌詞の話を織り交ぜながら、多角的にイメージを共有していることが伝わる。さらには、平歌部分では浮遊感を大事にするが、サビではがっつりめにいくようにするなど、より具体的な表現の話も言葉にして伝えられており、この楽曲の世界観をより立体化していく営みが映し出される。「イメージの共有→実際に音に出してアプローチする→様々なパターンのチャレンジ」という過程が映し出されており、大森のイメージをメンバーがどう広げていくのかという、“バンド”ならではの制作の様子がも確認できる。大森というメインコンポーザーがいるMrs. GREEN APPLEというバンドだからこその雰囲気が伝わる、貴重な映像となっている。