King Gnu、米津玄師、キタニタツヤ、こっちのけんと……“ひらがな”タイトルだから伝えられるニュアンス
ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットといったさまざまな表記を、その言葉を伝える上での微妙なニュアンスのために使い分けるのが日本語を使う者にとっての日常と言える。それはアーティストが言葉に向き合う際にも重要視されるだろう。
本稿で紹介したいのは、“ひらがな”で名づけられたタイトルの楽曲たちだ。スマートでクールな印象を持つカタカナやアルファベット、形式ばった硬いイメージを与える漢字と異なる“ひらがな”が伝える楽曲のニュアンスとは、一体どのようなものだろうか。
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)の主題歌としてKing Gnuが書き下ろした新曲のタイトルは「ねっこ」。流麗なストリングスと井口理(Vo/Key)の真っ直ぐな歌声が清らかに響くミドルバラードだ。
この楽曲は人生における“根”(Roots)、そして“花”について歌っており、「ねっこ」という表記が優しさや素朴さを宿している。ドラマでも描かれる故郷を失い漂っている人々、そして現代を根無し草のように生きる人々が抱える想いに寄り添う曲に相応しい温かなタイトルである。また、そこには同時に泥臭さも感じられるだろう。戦後間もない頃に日本を立ち上がらせた実直なエネルギーを描く作品に相応しい、ひらがなタイトルの主題歌と言えるだろう。
大ヒット映画『ラストマイル』の主題歌となった米津玄師の「がらくた」。真っ直ぐなサウンドに劇的なメロディがうねる名バラードであり、映画の登場人物の心情を掬い上げる歌詞も胸を打つ。
“ガラクタ”という無機質なカタカナ表記や“我楽多”、“瓦落多”など多くの意味を含む漢字表記ではない、最も柔らかで簡素な印象を与える“がらくた“という表記。これは楽曲が描く、人の感情の儚さや脆さを見事に表現しているように思う。字面から喚起されるぽつんとした情感は、ひらがなタイトルだからこそ成せることだろう。