クレナズム、ライブアレンジの妙と熱量 今伝えたいことをやり切った『冬のバリよかワンマンツアー』東京公演
クレナズムが東京、大阪、台湾を巡る『冬のバリよかワンマンツアー2024~ハートを掴んであたためて~』が開催された。ツアーは全会場ソールドアウト。ここでは初日の東京公演を振り返る。
今回のライブを観て確信したのは、日本語を大切にするまっすぐなボーカルも、ノイジーなギターサウンドも、2000年代に一大シーンを気づいたジャパニーズポストロックの構築美も貪欲にオリジナルに昇華する演奏はとても日本のバンドらしいということ。というか、日本のロックシーンでしか生まれ得ない音楽性だ。バンドが軸にしている「シューゲイザー×J-POP」という概念すら超えてしまっている。
靄がかかったようなライティングとけんじろう(Gt)の空間を切り裂くシューゲイズサウンドが異空間に誘う新曲でライブがスタート。冒頭から新曲であることも彼らのシグネチャーであるギターサウンドが押し出されている点も非常に意志的だ。想像以上にオルタナなムードを醸すライブパフォーマンスに心の中で快哉を上げていると、ヒリヒリするような繊細さと透明感のある萌映(Vo/Gt)の声と鋭いギターサウンドが作り出す「あなたはさよならをここに置いて行った」、スローテンポとモノローグ調のボーカルの「鯨の鳴き声」では名門4ADのバンドを彷彿とさせ、淡々と刻まれるビートの「夜に溺れて」では孤独な空間を擬似体験させてくれる。リスナーの年齢や音楽的バックボーンで想像されるものはもちろん変わるだろうが、序盤を内側を見つめるような透徹した楽曲で始めたことでバンドの芯に触れた思いだ。
ライブアレンジされた「月のようで」でのしゅうた(Dr)の四つ打ちのキックに合わせてクラップが起こり、それまで鑑賞に集中していたフロアが一気に躍動し始める。アウトロからSEで繋いで、「ホーム」へ。早朝の駅のホームの空気の冷たさを思い出させるようなギターのアルペジオに、クレナズムのバンドアレンジの妙を感じる。サウンドそのものは海外のオルタナ直系でありつつ、フレーズの長さや配置に歌を活かすアイデアが必ずある。さらに四文字熟語や中国語にも似た古語っぽいタイトルを多く持つ彼らだが、アンダードッグの心情を託した「酔生夢死」は性別にも時代にも関係なく刺さる。突き詰められたオルタナティブロックサウンドとブルージーな歌詞が違和感なく共存するこの曲は一つ、他のバンドに真似できない個性だろう。
MCではしゅうたが未発表の新曲を1曲目から披露したこと、タイトルに「ひとりセンチメンタル」を推しているがベースのまことは「安直だろ」とバッサリ。笑いが起こる中、もう1曲用意してきたUKロック調のギターロックの新曲を披露。彼らのレパートリーの中ではかなり速い疾走感のある曲でかなりの求心力を見せていた。そのまま8ビートの「ヘルシンキの夢」に繋ぎ、サビの一瞬のファルセットが意識の揺蕩う歌詞をさらにふわっと浮かせる。萌映の「リベリオン!」のタイトルコールがフロアの熱をさらに上昇させ、サビでは多くの手が挙がった。
エンディングの厚いアンサンブルからスッと音が抜けたところに萌映の歌始まりの〈夏の夜に 消えた花火は〉というフレーズが高い輝度を纏って響くと、大きな歓声が。ピアノのシークエンスと対照的な焦燥感を煽る速いキックが夏の終わりを表現する「杪夏」をライブの立体感とともに届けていく。いわゆる邦ロックマナーにも則ったライブチューンは続く「ひとり残らず睨みつけて」まで高いテンションで爆走。馴染めない学校生活や、その中でも見つけた自分に似た誰か。言葉数の多い歌に冷静に“睨みつける”態度に近いものを感じる中、萌映が〈この場所は 3番街の通り〉を「この場所は代官山UNIT!」と歌詞を替え、オーディエンスの気持ちを束ねる。
フロアも吐き出したいものを吐き出して清々しい顔が増えたところで、ライブと相当なギャップを生むグッズ紹介が展開される。けんじろうはクールなキャラの割に意外と高い声だったり、曲作りの頭脳・しゅうたのしっかり者の側面、まことの全体を見渡してどっしり構える部分など、話し始めるとメンバーのキャラが明確になって、ライブアレンジにもさらに耳を澄ましたくなるから不思議だ。