Hakubi、新体制初インタビュー “らしさ”から解き放たれたバンドが目指すこれからの音楽
Hakubiが新体制第一弾シングルとなる新曲「クロール」をリリースした。自らの衝動を抑えることなく殻を破りたいという思いが込められたこの曲は、力強くソリッドなギターリフが牽引する激しいバンドサウンドが印象的。湧き出てくる気持ちがそのまま音に表れているかのようだ。
Hakubiは今、変わろうとしている。3ピースロックバンドとして2017年に京都で結成し、7年という月日が経った今年、9月にマツイユウキ(Dr)の脱退を発表した。ライブ中も笑顔を絶やさないムードメーカー的な存在だっただけに、このニュースは我々に大きな衝撃を与えた。確かにメンバーの脱退は大きな変化だ。しかし、Hakubiはもっと大きなところで変化しようとしている。括られるカテゴリや属するシーン、そういった周りからのレッテルを剥がすように、今Hakubiは団結している。
Hakubiはこの曲で〈“らしくない”ことをやってみよう〉と高らかに叫ぶ。取材中にもボーカルの片桐(Vo/Gt)が「今までは“Hakubiらしさ”に縛られていた」としきりに話していた。“らしさ”に執着すると、時に人は身動きができなくなってしまう。まさに“らしさ”という呪縛から解き放たれたHakubiは、自由という武器を手に入れた。Hakubiは今、自由な大海原へと飛び立つ瞬間にいる。(荻原梓)
ドラマーの脱退を経て Hakubiが目指すより“音楽的”な表現
ーー9月にドラムのマツイさんの脱退が発表されました。結成時からのメンバーが脱退となった今の心境を教えてください。
片桐:マツイくんはHakubiの中でもムードメーカー的な存在だったので、ファンからの悲しみの声は伝わってきています。でもだからこそ、楽曲やライブで、これからの私たちのことも信じてもらえるように証明していかなきゃいけないし、それについては今すごく自信があります。もちろん悲しくさせてしまっていることは承知の上で、あらためて私たちのことを信じてほしいなっていう気持ちです。
ーー2人にとってマツイさんはどんな存在でしたか?
片桐:熱い人ですね。
ヤスカワアル(Ba/以下、ヤスカワ):めっちゃバンドが好きで、バンドへの思いが強い人。ロックバンドの定義は人によって違うと思いますけど、ロックバンドへの思いがめちゃくちゃ強くて、熱いものがありました。
ーーあらためてマツイさんが脱退するに至った理由を教えてください。
片桐:大きいところで言うと、お互いのカッコいいと思う音楽の違いだと思っています。それがわかり始めたのが「最終電車」という楽曲を作り始めていた去年の春頃です。その頃から私のモードが変わり始めて、DAWを使ってバンドサウンド全体を作ってからメンバーに楽曲を共有するようになりました。そのあたりから自分の中にある理想像をもっと追求したいという気持ちが強くなっていったんです。それで今年の頭くらいにあらためてHakubiというバンドについて話し合っていた時、メンバー内で自分たちの好きなものやカッコいいと思うものに相違があったと気づきました。それがきっかけとなって、マツイくんが脱退することになったという感じです。
ーーなるほど。今DAWを使い始めたという話がありましたが、それは片桐さんがこれからHakubiの楽曲を制作する上で、あらかじめ曲の全体像を作ってから曲作りするスタイルにシフトしていきたいという思いがあったからなんでしょうか?
片桐:というより、自分の中でひとつ軸を作ってみたら、それがすごくハマったんですよね。今まではギターの弾き語りでデモを作ってメンバーに投げていたんですけど、自分の思う音像を形にできたことによって、軸ができた感じがありましたね。バンドを結成して7年経って、新しいことに挑戦したいっていう気持ちがあったところで、あらためて自分のルーツに立ち返ったという感じです。
ヤスカワ:あえて言えば片桐とマツイのやりたい方向性が違う感じはずっとあって、それらの調和を図っていくのがこれまでのHakubiのスタイルだったんです。でも、もっと芯を強く持って「Hakubiの色を確立していこうぜ」っていうマインドになっていった。片桐は優しいから、それまではみんなに気持ちよくやってもらえるようにいろんなスタイルの曲を提示してくれていました。メンバーの好きな方向性の楽曲を作れば、みんな気持ちよく演奏できるじゃないですか。でもそのやり方はある意味で縛られていて、本来のポテンシャルを活かしきれない。人の気持ちを思いやって曲作りするのではなく、一旦フラットにして好きなように音楽を作ってみようぜっていうノリにはなってましたね。
片桐:ある意味ですごくHakubiに縛られていたし、今までのスタイルを大切にしてきたんですけど、そこからもっと自由に自分のやりたいことに素直になりたいっていう思いが強くなりました。3ピースロックバンドとしてインディーズ時代から作り上げてきた音像がこれまでのHakubiのイメージで、それがHakubiでしょっていうのがマツイくんの立場。私はそうじゃなくて「もっと音楽的になりたい」という気持ちが強くなってきました。3ピースロックバンドというカテゴリに括られない、それこそ〈“らしくない”〉と思っていたことをやってみたいと思ったことが、きっかけになっていると思います。
ーーHakubiをもっと音楽的にしていきたいという話ですが、片桐さんの思う“音楽的”とはどういうものを指しますか?
片桐:そもそも私が作詞作曲するのは、自分の考えていることを人と話しても満たされなかったり、吐き出せなかった時にそれを音楽に昇華させていたのが始まりなんです。それでシンガーソングライターになって、バンドを始めて歌詞としてその思いを表現していたんですけど、言葉を届けるための音楽だったところから、今は音楽そのものを届けたいという気持ちが強くなってきました。
ーー言葉よりは音作りやアンサンブルといったものを重視したいということですか?
片桐:それももちろん大切なんですけど、それよりは音楽そのもののことが好きになったと言った方がいいかもしれません。今までのHakubiは歌が先行していて、歌詞が曲を引っ張っていた印象なんですけど、でも私がリスペクトしている人たちの音楽を聴くと、歌じゃなくて音楽なんです。それに気づいてから私もそうしたいと思って、歌や歌詞も大事にしながら、音作りやアレンジにもこれまで以上にこだわったトータルでの音楽を目指しています。DAWを始めてから、こういう感情を表現したいからこういう音を鳴らす、みたいなイメージを自分の中で組み立てるようになりました。これって何をやってるんだと言ったら、歌ではなくて音楽を作っていたんですよね。それが「音楽的にしていく」ということです。
ヤスカワ:音楽的と言うと少し小難しい感じがしますけど、音楽理論とかを追求するんじゃなくて、デモからレコーディングしていくにあたって、トレンドとか数字とかいろんなフィルターがあるとして、そういったものを取っ払って純度を高めていったものを作品として出していこうぜっていうことです。あとは、ソングとして届けていたものをミュージックとして届けて評価されたいということでもあると思います。
ーーメンバーが脱退するにあたって活動休止を選択するバンドもいる中で、2人でHakubiを続けていくと決めた理由は何ですか?
片桐:逆にあのままやっていくほうがHakubiという存在はなくなってしまう可能性が高かったんじゃないかと思っています。アルくんが言っていたように、それぞれの意見のあいだを取っていくことってよくないことだと思っていて。
ヤスカワ:今はチームとして一色に染まっている感じがあります。