Myuk、EP『Eureka』で新たなフェーズへ リスナーの心を打つ表現力と“自分”を掴み取った確かな歌声
シンガーソングライターとして活動していた熊川みゆが、TVアニメ『約束のネバーランド』(フジテレビ系)エンディングテーマのオファーを受けたことをきっかけにMyukという新たな名義で動き出したのは2021年のことだった。それまではギターの弾き語りというスタイルで音楽を生み出していた彼女だが、メジャーデビュー曲となった「魔法」ではEveから楽曲提供を受け、まったく新しい姿を現してみせた。
その後も彼女はコンスタントにリリースを重ね、そのたびに表現の幅を広げ続けてきた。メジャーデビューから1年を経てリリースされたファーストアルバム『Arcana』にはそこまでのシングル曲も含め、Eveをはじめ、Shin SakiuraやGuiano、ササノマリイ、tofubeats、川口圭太などバラエティ豊かなクリエイターが参加した楽曲が集結。アルバムを聴いて感じた、それまでシングル単位で触れてきたMyukの音楽世界がひとつに連なり壮大な物語となっていくような感覚はとてもドラマティックだった。
そんな『Arcana』からおよそ8カ月。9月25日にリリースされたデジタルEP『Eureka』が物語るのは、挑戦の日々を経てMyukという表現とその歌のストロングポイントがますます揺るぎないものになり、他ならぬ彼女自身がその芯の部分をしっかりと掴み取っているということだ。
まず、1曲目に収められたGuiano提供の「Black Sheep」が聴く者を驚かせる。シンプルなストリングスのリフレインに乗せて〈Hey baby 今夜私は 街の灯を見にゆくわ〉と歌い起こされるこの曲は、Myukの歌の特色のひとつであるリズム感のよさを存分に感じさせながら、ギターの音色が印象的なBメロからアッパーなサビへと繋がっていく。しかしそれだけでは終わらないのがこの曲だ。途中から一気にリズムチェンジすると、ヘヴィなギターサウンドやビートが楽曲の風景を一変させていく。そんなジェットコースターのような展開すらも楽しむかのようにアップダウンを繰り返すメロディを、彼女は難なく乗りこなしていく。パートごとにさまざまな表情を見せるその声は、まるでメジャーデビュー以降活動を続けてくる中で増えた引き出しを片っ端から開けていくようで、〈歌うぜ どんなメロディーだって〉という歌詞が、まさに今のMyukの思いを代弁するように響く。
一転して続く「花はかぐや」では尺八や三味線、祭太鼓などの和風のサウンドがまったく違う情緒を呼び起こす。日本最古の物語である『竹取物語』をモチーフにしたこの曲はナツノセの手によるもの。メロディにも和の要素が散りばめられていて、歌い回しには歌い手としてのMyukの大きな礎となっている民謡(彼女は幼少期から民謡を習い、大会にも多数出場していた)のニュアンスも感じられる。そして3曲目「Coccoon」ではここまでの3曲の中でもっともニュートラルで距離の近いMyukを感じることができる。イギリス出身の音楽家・bo enの作るミニマルでどこかかわいらしいトラックの上で、まるで囁きかけるようなMyukのボーカルが耳に残る。古川本舗が手がけた、自分で自分を抱きしめるような優しい歌詞もあいまって、なんだかほっとするようなあたたかさを感じる楽曲に仕上がっている。