2024.10.05 18:00

Myuk、EP『Eureka』で新たなフェーズへ　リスナーの心を打つ表現力と“自分”を掴み取った確かな歌声

文＝小川智宏

　そんな3曲に加えて、『Arcana』のCD版のみに収録されていた「Pancake」と「愛の唄」のリアレンジバージョン、そして新たにリアレンジされた「Arcana（Eureka version）」という計6曲で構成されているこの『Eureka』。そのすべてで、僕たちはまったく違うMyukと出会うことができる。そしてこの6曲を通して聴いたとき、それを貫く、シンガーとしてのMyukの芯に触れたような気分になるのだ。たとえば「Black Sheep」に表れているポップシンガーとしての反射神経の鋭さと表現の多彩さ。「花はかぐや」で感じることのできる、民謡出身者だからこその繊細さと力強さ。そして「Coccoon」での等身大な彼女の声と言葉。各クリエイターの個性がいかんなく発揮されているという意味ではこれまでのMyukの作品と同じだが、その個性に寄り添うだけでも、ましてやそこに飲み込まれるわけでもなく、その上でMyuk自身の表情や感情をしっかりと伝えていくような今作の歌は、Myukという表現が「熊川みゆによる別のペルソナ」というよりも、より“熊川みゆ自身”に近づいていることを表しているようにも思う。

　それを雄弁に物語るのが、EPの最後に収められた「Arcana（Eureka version）」である。「花はかぐや」にも通じる和のテイストを大胆に取り入れる形でリアレンジされた「Arcana」で、Myukはオリジナルバージョンとはまったくといっていいほど違う、力感のこもった歌を届けている。その凛とした歌声は、ストリングスやピアノがドラマティックに盛り上げるサウンドにも負けない力強さでリスナーの心を打つ。〈この目で見た全て　これからもこの声で記す〉――この曲はそんな言葉で終わるが、以前は願いのような切なさを帯びていたそのフレーズが確かな意思をもって響いてくるのを聴くと、新たなフェーズに突入したMyukがこれから聴かせてくれるであろう歌に、ますます期待が高まるのである。

Myuk - Arcana (Eureka version) / FLASH THE FIRST TAKE

　9月11日、その「Arcana （Eureka version）」と、さらに別バージョンである「Arcana（Acoustic version）」のパフォーマンス動画が、「THE FIRST TAKE」のショート版である「FLASH THE FIRST TAKE」で公開された。それを観ると、彼女の歌に宿る肉体性をより強く感じることができるはずだ。「Eureka version」ももちろんだが、とりわけ「Acoustic version」は文字通り剥き出しのMyukである。歌い出しに付け加えられた台詞も含めて、ぐいっとこちら側に手を伸ばしてくるような手応えがあって、何度も繰り返し観てしまう。60秒という短い時間だが、それだけで今のMyukの力強さを感じることができるものになっているので、まだ観ていない人はぜひチェックしてほしい。

Myuk - Arcana (Acoustic version) / FLASH THE FIRST TAKE

　こうしたパフォーマンスを世の中に出すことができたのも、きっと『Eureka』という作品で彼女が何かを手に入れることができたからだろう。これまで培ってきたすべてを武器にして進化を続けるMyuk。その歌が届くべき人は、まだまだたくさんいる。