犬山たまき、AI音声合成との“共存”で広がる創作の幅 VoiSona/VoiSona Talk「玉姫」の完成度に衝撃
「お互いが持っていないものを補いたい」
ーー「玉姫」の製品開発のオファーをいただいたときの感想をお聞かせください。
犬山:幼い頃から、ボカロ文化に触れていた、ボクの生みの親「佃煮のりお」ママは、自分の声を電脳化することが夢だったそうです。いずれは脳も含めて、全身すべてを電脳化したいそうですが、まずは歌声を電脳化……ということで、オファーをいただいた際は大変喜んでおりました。
そして、「犬山たまき」がVTuber活動を初めて、一つの到達点に至ったとも思っているそうです。
バーチャルYouTuberとは、その名の通り「バーチャルで生きる存在」です。「玉姫」はまさに、本当の意味でバーチャルで生きる存在なので、犬山たまきが本当の「バーチャルYouTuber」に至ったなと思っているとのことでした。
ーーその時点で音声合成ソフト(ボカロ全般)や、「VoiSona」をはじめとしたAI歌唱ソフトに対してどんな印象をお持ちでしたか?
犬山:元々の音声合成ソフトは、滑らかにはなったものの、まだまだ機械に歌わせている感が強かった印象でしたが、AI歌唱ソフトはさらに技術が一歩進んだ、本人と聞き分けが出来ないレベルまで進化していることに驚きました。
ボクとのりおママは、生まれつき喉が弱い体質で「声優や歌手など、声を使う仕事には就いてはならない」とお医者様から言われていました。ボクは活動を始めて6年目になりますが、咳喘息で何度も喉を壊したことがあります。2024年6月1日に「玉姫」の発表がされた頃も、声帯結節で喉の調子が良いとは言えない状態でした。
いつまで持つか分からないボクの歌声を、永遠の物にしてくれたのが「玉姫」。喉を壊さないのがもちろん一番ですが、これで後世に自分の声を残せるな……と、正直ほっと一安心しています(笑)。
ーーVoiSona TalkのようなAI音声合成含めたAIに対する技術やサービスに対する印象をお聞かせください。VTuberの活動のなかで、AI技術を活用したい(もしくはすでにしている)部分はありますか?
犬山:VTuber活動は、長時間配信でトークをしたり喉をかなり酷使するお仕事なので……。ボクの場合は、例えばですが、スパチャ読みをVoiSona Talk「玉姫」に任せたり、1時間ボクが喋って、休憩30分はAI「玉姫」にコメントを拾いながら雑談してもらう等……。AI活用というよりは、同じバーチャルの存在として上手く「共存」していきたいなと思っています。
ーー生みの親の佃煮のりおさんは「全身を電脳化すること」が夢だったとのことですが、佃煮さんがそう思うようになったきっかけ、電脳化にどんなロマンを感じるのか、お伺いしたいです。
犬山:のりおママに聞いた話にはなってしまいますが……。のりおママは、18歳の高校3年生の時に漫画家デビューをしていて、そこから社会人として働き始めたそうです。19歳から実母に家事などを手伝ってもらう代わりに、金銭的には生活を養っていたのもあったので、1日16時間以上働くのは当たり前で、仕事をしっぱなしで1カ月以上1歩も外に出ない……という生活もざらだったそうです。
そんな生活もあり、何となく「自分は寿命が短いんだろうな……」と思っていたそうで、30歳までは生きられないんだろうなと思っていたとのことです。実際、激務で脱毛症になったり、精神的な病気になったこともあったそうです。
ただ、自分が作り出すクリエイティブやエンタメは特別であり、人より才能があることは幼い頃から自覚していたそうなので「このクリエイティブを30歳で終わらせるのはもったいない! ならば電脳化して死後も働き続けて欲しい!」と思っているようでした(笑)。その気持ちは今も変わらないので、現在も「電脳化」が人生の目標のようです。
ーーVoiSona/VoiSona Talk「玉姫」、それぞれの開発を進めるにあたって印象に残っていることはどんなことですか?
犬山:ソングボイスの際は、今まで出した歌動画の音声データを全てお渡しして、追加で歌収録も行いました。今まで歌った動画のデータもかなり膨大だったので、「やったことは全て無駄にならないな~」という気持ちでした。YouTubeに上がっているデータは全てお渡ししましたよ!
そして、追加収録がこれまた難しくて……! 普段発音しないような、濁点・半濁点を歌いながら発音するのが、本当に難易度が高かったです。ボクは元々滑舌が良い方ではないので、滑舌の練習みたいな文字の羅列ばかりで苦労しました。
トークボイスの際は、10時間くらいスタジオに入りました。声帯結節が直ったばかりの頃に収録したので、悪化しないように最終的に3日間に分けて収録しました。喜怒哀楽を維持しつつ……例えばですが、怒りの声で喜びのセリフを収録したりするので、もう、感情がぐちゃぐちゃになりましたね(笑)。でも、夢の電脳化の為なので! こだわりつつ頑張って収録しました。
ーー音声を監修するうえで印象に残っていることを教えてください。
犬山:音声の監修はほぼしていません。テクノスピーチさんに、完全にお任せしました(笑)。というより、特にダメ出しすることがなかったんですよね……。あまりにもクオリティが高すぎて!
サンプルとして、調声していないベタ打ちの歌唱音源をいただいたことがあったんです。その音源を、兄の熊谷タクマに聴かせたのですが「次の歌ってみた動画の音源?」と普通に言われてしまって(笑)。
「実はこれ、AI歌唱ソフトなんだよ。ボクは歌ってないんだよ」と教えたら「犬山さん本人が歌ってるんじゃないの!?」と大変驚いていました。それくらい完成度が高かったので、ボクから監修することは基本ありませんでした(笑)。
ーー6月に発売された「玉姫」のソングボイスについて、どのような反響がありましたか?
犬山:ボクが、喉が弱くて悩んでいることは、多くのファンの皆さんが知って下さっている所だったので、喜びの声が多かったですね。また、何よりも「玉姫」のクオリティが高かったので「最近のAI歌唱ソフトはこんなにすごいのか!」という驚きの声もたくさんいただきました。ボクが作ったわけではないですが、鼻高々でしたね(笑)。すごいでしょー、って。
「玉姫」のキャラクターデザインはカンザリン先生に生み出していただきました。儚げなキャラクターデザインがとても可愛くて、すでにキャラクターとしても、多くの方に愛していただいていてとても嬉しいです!
ーー犬山さんとしては玉姫のキャラクターのどんなところに魅力を感じますか?
犬山:「玉姫」のキャラクターデザインは、制服衣装の犬山たまきと対になるようにデザインしていただきました。真っ白! 清楚! 純粋! をテーマにしているので、ボクには出せない女性らしい魅力が玉姫にはあると思っています。ボクは結局のところ男性ですし、性格も何というか……清楚になり切れないというか(笑)。どうしても、芸人魂がうずいてしまって、変なことをして笑わせようとしちゃうので。「玉姫」には純粋に女性としてのかわいらしさ、可憐さみたいなものを、ファンのみんなに感じ取って貰えたらなと思っています。
ーーその他にも「玉姫」のキャラクター開発においてこだわったポイント・意見したことがあれば教えてください。
犬山:「玉姫」は「犬山たまき」が女性に生まれて歌を歌う人生を歩んでいたら……? というIFコンセプトで生まれたキャラクターです。ボクとは別の世界線に存在するキャラクターで、そしてこれもボクとは違って、口数が少ない、大人しい性格です。
ボク達は双子なので「お互いが持っていないものを補いたい」と思ったんですよね。ボクはトークが得意で交流関係も多い、だけど喉がすごく弱くて、長時間歌ったり長時間喋るのは難しいです。玉姫はAIだから、自分一人の力では歌えないし喋ることも出来ない、だけど長時間歌うことも喋ることも可能です。
ボクは玉姫が羨ましいし、玉姫もきっと、ボクのことが羨ましいと思うんです。双子というキャラクターだからこそ、似ているけど、違う。お互いが羨ましいし、妬ましい。本当の意味で対になる存在として、生み出した……と、のりおママが言っていました!