望海風斗×武部聡志×HIDE(GRe4N BOYZ)「ミチシルベ」鼎談 1stアルバム『笑顔の場所』の全貌も語る
宝塚歌劇団雪組トップスターとして活躍し、2021年退団後はその高い歌唱力と表現力を武器にミュージカル『ドリームガールズ』『イザボー』などの大作で主演を務め、現在も『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演している望海風斗。新たなチャレンジとして音楽活動をスタートさせ、2024年3月にアンジェラ・アキが楽曲提供した「Breath」を配信リリース。そして8月28日にはプロデューサーに武部聡志を迎え、待望の1stアルバム『笑顔の場所』を発表した。「人生というリングを笑顔の場所にする」というコンセプトの同作には「Breath」やGRe4N BOYZが提供した「ミチシルベ」に加え、J-POPのスタンダードナンバーのカバーなど全10曲が収録されている。望海はこれまでとは違うポップスという音楽、そしてシンガーとしての自身とどう向き合ったのか――望海と武部、そしてGRe4N BOYZ・HIDEとの鼎談が実現。3人が語る『笑顔の場所』の全貌とは。(田中久勝)
武部聡志とHIDE(GRe4N BOYZ)から見た望海風斗のシンガーとしての魅力
――望海さんと武部さんは8月16日にビルボードライブ東京でライブを行なったばかりですね。
望海:普段のステージと違って客席との距離がとても近いので緊張しましたね。でも慣れてくるとお客さんの顔もよく見えて、みなさんの感情をダイレクトに感じることができるのが嬉しかったです。アルバムのレコーディングまでレッスンやトレーニングを重ねてきたのですが、その道のりのことを考えると、ビルボードで生で歌っている時は、あらためて歌うことができてよかったという気持ちもありました。
武部:お客さんがすごく喜んでくれて、嬉しかったです。僕が望海さんに最初に会ってからこの数年で、表現者としてもすごく変化して、歌も進歩していることを感じたステージでした。努力の人なので僕らが見えないところですごく練習しているのだと思います。あの空間もすごく合っていたと思います。
望海:ビルボードライブ東京は初めての場所でしたが、素敵な空間でした。カーテンが開いて六本木の街が現れる演出は私自身も感動しました。
――武部さんと望海さんの出会いを教えてください。
武部:2022年の望海さんのコンサート(望海風斗 20th Anniversary ドラマティックコンサート『Look at Me』)で僕が音楽監督をやらせていただいたのが最初です。
望海:武部さんが手がけた曲も聴いていましたし、テレビでもご活躍を拝見していましたので、そんな方が私のコンサートの音楽監督を引き受けてくださるなんて恐れ多すぎて。どうやってお会いしたらいいんだろうって最初はドキドキしていました。それで最初に顔を合わせたのがスタジオのエレベーターで……。
HIDE:一番何をしゃべっていいかわからないパターンだ(笑)。
望海:(笑)。音楽フィッティング(歌合わせ)の日で緊張していたのですが、スタジオの空気をフラットな状態にしてくださって、何も気にしないで歌うことができました。その一日で緊張が解けたというか。
武部:僕にとっても勉強でした。普段やっているポップスのフィールドに比べて、ミュージカルやスクリーンミュージックは、もうこのフレーズじゃなきゃダメ、というのが決まっているので、そこは崩さないで組み立てなければいけない。少しだけそちらの世界に造詣が深まったと思います。
――武部さんが最初に望海さんの歌を聴いた時はどんな印象でしたか?
武部:なんて器用な人だろうと思いました。宝塚で男役をやっていた人はどうしても男役の歌い方が体に染みついている。でも望海さんはビルボードのステージでも「七色の声を持っている」と言いましたが、リハーサルの時に宝塚のナンバーやミュージカルナンバーも歌えばJ-POPのカバーを歌うのを聴いて、その曲に合う声色というか、声の使い分けが素晴らしいと思いました。そういう意味で器用だなという印象がすごく強かったです。
望海:ポップスを歌うということもそうですが、宝塚を退団してからは音域がひとつの壁でした。でもそれが少しずつ歌えるようになって、今歌うのがすごく楽しいんです。
――HIDEさんはソングライター、プロデューサー的な視点で望海さんの声、歌をどう感じていますか?
HIDE:デモを聴かせていただいて、言葉と、それを伝えたいという思いがちゃんと伝わる声だと思いました。そういうシンガーっているようでなかなかいません。稀有な存在の一人だと思いました。素晴らしい声と出会うことができ、「ミチシルベ」という曲が生まれてよかったです。
HIDEが望海風斗を調べ尽くして書いた「ミチシルベ」
――記念すべき1stアルバム、どんな作品にしたいと思いましたか。
望海:アンジェラ・アキさんが書いてくださった「Breath」が起点で、人の一番深いところに寄り添えるような1曲になったらいいなというところからのスタートなので、みなさんの人生に寄り添えるようなアルバムを作りたいと思いました。
武部:当たり前ですが1stアルバムを出すことってキャリアの中で1回だけなので、メモリアルなものにしたいと思ったので、望海さんが本当に歌いたい曲を歌ってほしかったし、一曲一曲丁寧に選んで作りました。今年開催した『Hello,』というコンサートで、オリジナルナンバーがあった方がいいと思い、「Breath」をアンジェラ・アキさんに書いていただきました。そこから派生してアルバムに広げていく時に、「Breath」以外全部カバーという構成ではなく、次はアルバムを象徴するようなオリジナルナンバーが欲しいと思いました。誰に書いてもらうか考えた時、一番最初に頭に浮かんだのがHIDEさんでした。
HIDE:恐縮です。
武部:なぜなのかわからないけど、HIDEさんの作る曲がアルバムのコンセプトに合うだろうし、きっとアルバムを代表するような曲を書いてくれるに違いないと思ったんです。
HIDE:望海さんとのミーティングで、アルバムのコンセプトを聞かせていただいて、例えばノリがよくて聴いているだけで楽しい曲もあれば、じっくり聴かせる曲もあって、どちらの曲でも何かを心の深くで受け取ってもらえる、色々な曲で色々な人たちに何かを届けたいというお話を聞かせていただきました。その真っすぐな気持ちに応えたいと思って、メロディはもちろん、歌詞も望海さんの想いを受けて書かせていただきました。
――望海さんは「ミチシルベ」を最初に聴いた時、どう感じましたか?
望海:素晴らしすぎて本当に感動しました。一方で自分がこの先どう歌っていけばいいのかということも考えました。まずGRe4N BOYZさんの色があって、言葉一つひとつもすごくわかるというか、刺さる言葉がたくさんあって、自分自身が勇気をもらいました。デモの段階で作品としてすでに完成している感じがしたので、これから自分がどう表現していくべきかという思いが押し寄せてきたのも事実です。
――HIDEさんは曲を書く上で、望海さんの声に引っ張られる部分が大きかったのでしょうか?
HIDE:「Breath」はもちろん、望海さんのあらゆる歌を聴かせていただいた上で、歩んできた道のりや、ファンの方たちの声や熱量をネットでチェックしました。楽曲提供をする時には、その方がどういう日々を過ごされて、ファンの方々をどう思っていて、この楽曲を歌う時、そこにどんなパワーが乗っかるのかを考えることを大事にしています。そして楽曲を聴いてそのパワーを受け取ってくださった方が、自分の人生にも照らし合わせることができることも大切。ファンのみなさんの中でそうやって響いてくれると嬉しいなと思いながら作りました。それはどんなアーティストさんに対してもそうです。
望海:初披露したのがファンクラブのイベントだったのですが、泣きながら聴いてくださっている方が多かったです。もっとみんなワーッて喜んでくれるかなと思ったら、涙涙で、後から感想を見ると「今の自分の気持ちに寄り添ってくれている歌詞が刺さりました」という声が多かったです。
HIDE:もうこれでもかっていうくらい望海さんのことチェックしましたから(笑)。
――曲はスムーズにできたのでしょうか?
HIDE:何度かやりとりをして、修正しながら完成させました。
武部:最初はすごく難しいメロディでした。さすがの望海風斗でもカバーしきれないぐらいの音域の広さがあって。でもこのメロディは活かしたい、というディスカッションが何度かありました。
望海:最初はなかなか歌えなくて、みなさん頭を抱えていたと思います(笑)。でもメロディも歌詞も素晴らしいので絶対に歌いたいと思って、何度も練習して歌いこなせるようになりました。そういう意味でも思い入れが強い曲です。
HIDE:いわゆる作曲家の方は音域をあらかじめ考えて作ると思いますが、僕らの場合は思いのままに作ってしまいます。それを自分たちはメンバーが4人いるので、なんとか歌いきれるのですが、他のアーティストさんに楽曲提供させていただく時もやり方は変わらないんです。
武部:無茶なお願いもしましたが、前向きにトライしてくれて感謝しています。
――歌詞はひと筆書きだったのでしょうか?
HIDE:歌詞も何度か修正しました。伝わりやすさとか、熱さみたいなものがどう伝わっていくのか、調整しました。
武部:アーティストに提供してもらう場合、そのアーティスト本人が歌った時の伝わり方と、いわゆる作曲家、作詞家にお願いする場合とは違います。今回もこの曲をHIDEさんが歌った時と、望海さんが歌った時の伝わり方のニュアンスが違ってくるので、その微調整をお願いしました。
――「ミチシルベ」というタイトルはどんな思いで付けたのでしょうか?
武部:最初はタイトルが何もついていませんでした。歌詞の中にカタカナで書かれていたこの「ミチシルベ」というワードが第1稿の時からすごくいいなと思っていて、「タイトルは『ミチシルベ』だね」ってHIDEさんにLINEを送りました。
――アルバムのオープニングナンバーであり、アルバムのコンセプトにぴったりのタイトルだと思いました。真摯な言葉が詰まっていて、優しい歌なんですけど、どんどんエモーショナルになっていって胸に迫ってきます。
HIDE:やはり望海さんの歌とアレンジも含めて武部さんが作ってくださった世界によるものだと思います。
武部:いや、それはひとえにメロディがいいからだと思う。
HIDE:ありがとうございます。そのお言葉、録音したものをもらってもいいですか(笑)?
武部:GRe4N BOYZは、GReeeeN時代から大好きで、アーティスト性だけではなく作家性がすごく高いと思っていました。楽曲のクオリティがいつも極めて高い。どんなアーティストにも“いい曲”を書ける集団だなと思っています。
――GRe4N BOYZに改名したことが大きなニュースになりましたが、リスタートという言い方が合っているのかわかりませんが、心境の変化もあったと思います。それによって作る曲が変わってきたりしますか?
HIDE:めっちゃあります。どこかにGReeeeNといえばこうだよね、みたいなイメージがあったと思っていて、だから例えばこういう曲のここのシンセは抜いておこう、というジャッジをすることがありました。でも今はかっこいいと思ったことを自由にやっちゃおうという気持ちが強いです。もうそのまま出す。だからすごく楽しいです。
――HIDEさんと武部さんの関係はいつ頃からですか?
武部:明石家さんまさん企画・プロデュースの劇場版アニメ『漁港の肉子ちゃん』(2022年)の主題歌が、吉田拓郎さんの「イメージの詩」を稲垣来泉さんという10歳(当時)の女優さんがカバーしたものだったのですが、そのサウンドプロデュースを手掛けたGReeeeN(当時)からアレンジをお願いされたのが最初です。
HIDE:さんまさんがどうしても「イメージの詩」を映画に、とおっしゃていて、さらに稲垣来泉さんに歌ってもらおうということになって、4拍子の曲なんですが歌いやすいように3拍子にアレンジしてくださいと武部さんに無茶なお願いをしました(笑)。
武部:吉田拓郎さん本人が、聴いてるうちに涙が出てきて、最後は号泣したと言っていました。そのくらい良いものができました。