藤井 風、日産スタジアム公演を徹底レポ エンターテイナーとして全世界に発信したポジティブなエネルギー

藤井 風、日産スタジアムを観て

 8月24日、25日の2日間にわたり、藤井 風のスタジアムライブ『Fujii Kaze Stadium Live “Feelin' Good”』が日産スタジアムにて開催された。このライブは、藤井にとって自身最大規模の公演であり、また彼が日本国内でライブを行うのは今回が約1年半ぶりであった。遡ると、2023年2月、全国アリーナツアー『Fujii Kaze “LOVE ALL ARENA TOUR”』を完遂した藤井は、同年6月からアジアツアー『Fujii Kaze and the piano Asia Tour』に繰り出し、そして今年5月から6月にかけて『Fujii Kaze and the piano U.S. Tour』としてロサンゼルスとニューヨークで計4公演を行った。1年以上にわたって世界各国のファンとコミュニケーションを重ねてきた藤井は、今回の日産スタジアム公演で、私たち日本のファンの前でどのような姿を見せてくれるのか。この記事では、日本を含む全世界に向けてYouTube生中継が行われた8月24日のライブの模様をレポートしていく。

 はじめに結論から書いてしまえば、藤井のエンターテイナーとしての矜持、ポップミュージシャンとしての信念が全編に貫かれた圧巻のライブだった。約2時間にわたり、会場に集まった一人ひとりの心に親密に寄り添い、ポジティブなパワーで満たそうとする懸命な彼の姿に、何度も心を震わせられた。順を追って振り返っていきたい。

 まず、登場の仕方と幕開けの展開から、彼のエンターテイナー精神を強く感じた。開演前、観客席の一部をフォーカスして、映し出された観客の驚きと歓びの表情をありのまま伝える「MAKE SOME NOISE」のコーナーがスクリーンで展開されていた。はじめは、親子席の小さな子供たちがフォーカスされていたのだが、次に映し出されたのは、なんと観客席に紛れて座る藤井本人の姿。突然のサプライズに大きなどよめきが起きた次の瞬間、アリーナに藤井が登場。彼はそのまま、会場全体からの大きな拍手を受けながら、アリーナ中央の芝生エリアに設置されたグランドピアノへと向かって歩き出す。そして、着席とともに拍手がやみ、「Summer Grace」の美麗な旋律を奏で始めた(2021年、今回と同じ日産スタジアムの無観客配信ライブで、「罪の香り」を「夏の香り」として披露したように、今回は「grace」を「Summer Grace」として披露した)。

 凛と静まり返った会場の中央から、高らかに響きわたる藤井のピアノの美しい調べ。弾き終えた彼は、アリーナを移動しながら前方のメインステージへと歩き出す。そしてステージに到着すると同時に、最新曲「Feelin' Go(o)d」へ。ステージには、バンドメンバーの他に、ダンサーとアンサンブルキャストが登場。まるでミュージカルのような壮大なエンターテインメント空間が日産スタジアムに現出し、そして、藤井の歌とダンスを受けて自然と会場全体から大きな手拍子が巻き起こる。曲のラスト、藤井がキメのポーズのまま微動だにしない時間が長く続き(マイケル・ジャクソンへのオマージュだろうか)、長きにわたる沈黙に次第に観客の歓声と拍手が重なっていき、会場の高揚感が高まり切った瞬間、ライブ初披露となる「花」へ。ARIWA(ASOUND)、Emoh Lesの歌声が重なることで、楽曲の世界にさらなる深みと奥行きが生まれていて、今回のライブならではの特別なパフォーマンスに思わず息を呑んだ。

 オープニングパートを経て、藤井は、「あっちぃのにほんまにありがとう」「どこにおっても見てますから」「みんなもライブに来てるつもりじゃろうけど、わしもみんなのライブに今日来てます」と語った。そのままコーラスパートの練習を経て、「ガーデン」へ。藤井は、ステージの端から端まで歌いながら移動し、時おり手をバウンスさせたり振ったりしながら一人ひとりとのコミュニケーションを深めていく。「特にない」では、クラップとスナップを呼びかけ、「あなたのネガティブを全て日産スタジアムの空に投げて帰ってください」と呼びかける。ステージの縁に座り、寝転んだりしながら歌い届けられる藤井の歌に、観客のクラップとスナップの音が重なっていく。先ほどの短いMCの中で、藤井が英語で「This is your show.」と語っていたように、まさに、観客自身もこのライブの主役であることを実感した瞬間だった。

 続けて、「ちょっと会いにいきます」と告げた藤井は、自転車に乗り、アリーナ外周を移動し始める。会場全体から鳴り止むことのない驚きと興奮の声。藤井は、笑顔で自転車を漕ぎ、手を振りながら「さよならべいべ」を歌い届ける。その大きなサプライズに、彼が誇る生粋のエンターテイナー精神とファンとの親密な距離感を改めて感じた。

 この日だからこその特別な展開はまだまだ続く。インタールードを経て披露されたのは、「きらり」。ダンサー5人と共に織りなす椅子を用いたパフォーマンスが見せ場として用意されていて、続く「キリがないから」では、サングラスを付けたダンサーとロボットダンスをフィーチャー。ちなみに、この曲のライブパフォーマンスでお馴染みのアンドロイドは、今回はステージ上ではなくスクリーン映像に登場した。

 「燃えよ」では、藤井の情熱的な歌とダンサーの熱烈なパフォーマンスを炎の特効が彩り、その熱い展開に呼応するように、藤井の歌とロングフェイクにさらに熱がこもってゆく。アウトロでは、ショルダーキーボードでソロプレイを炸裂させ、会場全体から並々ならぬ歓声と拍手が巻き起こった。歌、バンド演奏、ダンス、映像、照明、特効。プロフェッショナルたちの総力を結集した総合芸術を前に、何度も強く心を動かされた。

 その後に届けられたのは、デビューしてからバンド編成で披露するのは今回が初となった2曲。藤井は、「あの頃となんにも変わらない気持ちでやりたいなって思います」と告げ、「風よ」「ロンリーラプソディ」を披露する。「ロンリーラプソディ」の〈みんな同じ呼吸〉の一節の後、藤井が「ちょっと一緒に息をしましょう」「いいことだけ吸って、いらんもん全部吐き出して」と促した優しさに満ちた一幕が忘れられない。湘南乃風「恋時雨」のカバー(〈夏の終わりの恋時雨〉という歌詞がこの季節にぴったりだった)から繋ぐ形で披露した「死ぬのがいいわ」では、TAIKING(Gt)が奏でる鮮烈なディストーションギターに呼応するように、次第に藤井の歌に熱く昂るエモーションが滲んでいく。凄まじい気迫に満ちた演奏だった。

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