8月15日、メカクシ完了──多くの人が共に思春期を過ごした『カゲプロ』の特別な日に寄せて
初音ミクの誕生日や、それに準じたシーンの一大祭典『マジカルミライ』ほか、8月はVOCALOIDを愛する人々にとって何かとイベントごとの多い月となる。そんな大勢のボカロ好き、あるいはすでにカルチャーから離れてずいぶん経つ人の中にも、“8月15日”という日に特別な思い入れを抱く人はきっと多いのではないだろうか。
8月15日ーーこれはシーンに一大旋風を巻き起こした、じん(自然の敵P)の楽曲「カゲロウデイズ」歌詞冒頭を飾る日付でもあり、曲に関連する『カゲロウプロジェクト』(以下、『カゲプロ』)シリーズの物語にとっても非常に大きな意味を持つ日となる。
現在も、毎年この日には本楽曲や『カゲプロ』の話題、そして「メカクシ完了」の合言葉が各所で散見される。そこで今回は今なお『カゲプロ』を愛する人々、また当時をともに生きた人々にとって8月15日がどんな意味を持つのか。重ねてそのムーブメントから、『カゲロウプロジェクト』というコンテンツの影響力や魅力に、改めて思いを馳せてみたい。
「カゲロウデイズ」歌詞考察から広がっていった“終わらない世界”
コンテンツを語るにあたり、本来なら原点であるじんのVOCALOID処女作「人造エネミー」から触れるのが順当なのだろう。しかし今回はあえて、先述の「カゲロウデイズ」を起点として本稿を展開したい。なぜなら、それだけこの曲はシーンに大きな爪痕を残し、だからこそ8月15日という日付はここまで大勢のリスナーにインパクトを残して今なお語り継がれるのだから。
もともと作品の人気理由は『カゲプロ』楽曲の一環であること以上に、衝撃的な内容の歌詞や、当時シーンでも支持を集めていた軽快な疾走感のロックチューンにある。特にリスナーを魅了したのは、やはり穏やかな夏の日の風景から急転直下の展開を迎える歌詞だ。刺激の強いショッキングな描写に加え、一人の少年とその友人にまつわる考察余地のある物語。その二つが主に、本曲の人気を支えた詞の魅力となっている。
なぜ少年は凄惨な8月15日を繰り返すのか。彼らはどうすればそこから抜け出せるのか。そして最後に登場する少女は一体何者なのか――。
楽曲の歌詞考察が動画上のコメントやネット各所で盛り上がる中、徐々に彼の他のボカロ曲も同じ世界線のストーリーを描いているという通説が広がり始める。謎が謎を呼び、大勢がこの楽曲群に魅了された結果、「カゲロウデイズ」投稿の2011年9月から半年後の2012年3月には、関連動画総再生数が1000万回を突破。重ねてその世界線の全容を紐解く小説の刊行が発表され、ここから今に至る『カゲプロ』のミックスメディア展開が始まった。
過去に一時代を築いたこともあり、新たに興味を持つ人もいまだ絶えない本コンテンツ。しかし、いざその世界を楽しもうとした時、楽曲や小説、アニメやマンガ等のメディアごとにストーリーが分岐し、展開が若干異なって分かりづらい点は今作のちょっとした難点かもしれない。
共通部分をまとめると、物語はおおまかに以下のような内容に要約される。
すべての事の発端は、はるか昔に一人の人間の男を愛したメデューサだ。彼女は寿命の違う種族である夫との死別を恐れ、自らの眷属の蛇が持つ異能で“終わらない世界”、通称・カゲロウデイズを創り出した。しかし誤解から彼女は大勢の人間による迫害を受け、結果一人でその世界へ閉じこもる道を選んでしまう。
重ねて現実の世界へ残した彼女の娘と孫もまた、のちに某年8月15日に人間から迫害を受け、ともに殺されてしまった。二人の魂を自らの居る世界へ呼び寄せ、孫だけを異能の一部で現実へと蘇らせた彼女。しかしその影響で、“8月15日に死んだ二つの魂をこの世界に引き込む”というカゲロウデイズの特性やカゲロウデイズの存在そのものを、メデューサ自身の力では解除できなくなってしまう。
以降、宙ぶらりんに存在し続ける並行世界となったカゲロウデイズ。その後も時代の先々で、その因果に多くの少年少女が翻弄されていく。様々な形で、誰かとともに一度8月15日に命を落とした子どもたちーー蘇った彼らには一様に“目”にまつわる異能が付与され、その発動時には自らの目が赤く染まるようになった。もとは縁もゆかりもない赤の他人だった彼らが、偶発的に出会っていき「メカクシ団」として結党。自分たちの異能について調べる中で“終わらない世界”であるカゲロウデイズの存在を知り、その悪用を企む黒幕と対峙する。そんな大筋となっている。