Official髭男dism『Rejoice』レビュー:ヒゲダン3年ぶりの大作、“濃さ”があって初めて伝わる感情や物語

 前作『Editorial』からなんと約3年ぶりとなるOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)のメジャー3rdアルバム『Rejoice』がリリースされた。本作にも収録されている印象的な主題歌の数々を思うと、3年ぶりというのも少し意外に思えるほど存在感を発揮していたヒゲダン。「喜ぶ/喜ばせる」というタイトルにふさわしいエネルギッシュなサウンドが詰まっている一方、疲れ、ストレスに苛まれ、ひそかに不安定にゆらぐ日常を捉えたウェットな歌詞も顔を出す。そんなアンビバレンスをまるごと受け止めて喜びに変えようというしなやかさとしたたかさがあるアルバムだ。

 以前執筆した『Editorial』のレビュー(※1)でも触れたけれど、ヒゲダンの曲は長い。曲自体の尺(今作最長は「日常」で、6分弱ある。もっとも、前作収録の「アポトーシス」の6分半には及ばないが……)に加え、特にサビが長い。16小節程度でまとまりそうなところで、ダメ押しのようにもう一行、8小節追加。そして楽曲が進んでクライマックスを迎えたあと、サビを畳みかけたうえでラストにさらにもうひと展開。けれどもそれが冗長に感じることはなく、長尺に説得力をもたせる剛腕が今回も振るわれている。

 「ミックスナッツ」(TVアニメ『SPY×FAMILY』オープニング主題歌)や「Subtitle」(フジテレビ系木曜劇場『silent』主題歌)は本作収録曲のなかでも一聴したときのインパクト、サビの「サビらしさ」が頭一つ抜けている印象だ。この2曲もやはり、「ここで終わるか」と思ったところでふんばってメロディを継ぎ足し、力強い言葉を添える。「ミックスナッツ」だったら、〈ここに僕が居て あなたがいる〉で終わっても成立しそうなところで、〈この真実だけでもう 胃がもたれてゆく〉と締める。「Subtitle」も、16小節の小綺麗な展開からはみ出した〈もう少しだけ待ってて〉が感情の強さとやさしさを強調する。つい控えてしまいそうな最後の一言をてらいなく堂々と発する気迫がヒゲダンの曲をいっそうドラマチックにしている。

Official髭男dism - ミックスナッツ [Official Video]
Official髭男dism - Subtitle [Official Video]

 ただ、本作は、転調や曲調の変化がつくりだす、ダイナミックにうねるような展開でねじ伏せるというよりは、もっと細かいアレンジの妙やストレートなメロディの魅力が際立っているように思う(もちろん大胆な転調や展開もたくさんあるにはあるのだけれども)。

 たとえば、ドラマ『マウンテンドクター』(カンテレ・フジテレビ系)主題歌で、今作のリリースに先駆けて配信された「Sharon」。これも転調が印象的な曲ではあるのだけれど、歌いだしから登場する、少し不安定な半音の動きが効果的に使われている。歌いだし(〈「ただいま」の代わりに〉)とサビの冒頭(〈ただ〉)のどちらにも、種類こそ違えど、スケール外の音を使った半音の動きが登場している。アレンジも含め、響きの異なるふたつの半音の動きが言葉と共に重なり、自分の生活をため息交じりに客観的に見つめるようなAメロと、〈あなた〉への思いを吐露するエモーショナルなサビのあいだに力強い連関が生まれている。単純に半音階のもたらす違和感がフックになって耳に残るうえ、楽曲全体のストーリーテリングもサポートするトリックになっている。四拍子を変則的に分割してリズムを乱すことで言葉にはあらわれない感情の高ぶりを刻む後半の展開も巧みだ。

Official髭男dism - Sharon [Official Video]

 かと思えば、「濁点」はヒゲダンにしては珍しくシンプルでまっすぐな構成の一曲。80'sマナーのビートがじりじりと助走をつけ、疾走感あふれるエイトビートに入る展開はケレン味こそ少ないものの、立ち止まることなく流れ続け、起伏の強弱で緩急をつけるメロディの心地よさが魅力的だ。

 他にも、ギターのカッティングが爽やかなシティポップマナーからヘヴィなクライマックスにさりげなく移行する「Get Back To 人生」、サビで少し奇妙な転調(同主調でマイナーとメジャーを4小節ごとに行き来する)を聴かせる「キャッチボール」、クラビネットのファンキーなフレーズに始まってコール&レスポンスをユーモラスに織り込んだ「うらみつらみきわみ」等々、今作初出の新曲にも聴きどころは満載。

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