西野カナの活動再開はなぜこんなにも歓迎されたのか? 他の歌姫とは異なる等身大の存在感

 「Best Friend」では〈メール〉だが、スマートフォンが普及して以降は「Have a nice day」(2016年)で〈スマホを片手にコーヒー〉と綴られたり、「Believe」(2013年)では〈勝手に更新される/アイツの最新情報〉というSNSを連想させる歌詞が登場したり、その時代における私たちの日常の変化を上手く歌詞に取り入れてきたのも、彼女の特徴だろう。自身の体験と重ねやすく、思わず「あるある」と呟きたくなるような楽曲を西野は常に届けてきた。

 新曲の「EYES ON YOU」も、まさに彼女らしい一曲となっている。先述の「Best Friend」や、「会いたくて 会いたくて」(2010年)などを手掛けてきたGIORGIO CANCEMIとの再タッグ。サビでは、〈「愛してる」だけじゃ嫌だ/曖昧な言葉だから〉という、相手と離れたくない強い恋心が歌われている。ではなぜ、そんな気持ちを抱いたのか。〈お揃いのネックレスしていないのは/忘れただけだよって言ってたけど〉〈どうして今日は少し早歩きなの〉――相手の些細な変化に気づいたことで、主人公が不安に駆られていることが前後で描かれている。こうしたリアルな情景描写と、恋愛における切なさや苦しさを代弁する歌詞によって、曲のストーリーに引きこまれるのだ。

 圧倒的な歌唱力を持ち、ファッションやメイクでも“女性の憧れの存在”となりつつも、西野の楽曲には彼女と“恋バナ”を繰り広げているような、身近さを感じる。常に等身大の女性の気持ちを描いてきたからこそ、彼女の楽曲は多くのリスナーの心を掴むのだろう。

 2008年のデビュー当時は大学生。時が経ち、ひとりの女性として大人になった彼女は、今何を歌うのだろうか。きっと、これまで通り自身や周りの経験を踏まえながら、飾らない歌を届けてくれるはずだ。11月には、横浜アリーナでのライブが控えている。活動休止前に最後に立ったステージから再度刻まれていく、彼女の今後の物語を楽しみにしたい。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2021-06-03

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