x0o0x_ 初のフルアルバム『人形』全曲解説 リアレンジから新曲まで、唯一無二の存在と音楽を徹底解剖

x0o0x_ 初フルアルバム『人形』全曲解説

 投稿される動画には曲名が一切ない。その独特なスタイルにもかかわらず、YouTubeチャンネル登録者数は115万人を超え、X(旧Twitter)のフォロワー数は11万人を突破している。海外/国内問わず、ネットの海を深く潜るコアな支持層だけが、その歌声に出会っていた。

 そんな歌い手「x0o0x_」の待望の1stフルアルバム『人形』が、2月28日にリリースされた。

 2018年7月24日、ニコニコ動画で「イワシがつちからはえてくるんだ」のカバー動画の投稿を開始。今でこそ、各種音楽配信サイトで便宜上用いることと引き換えに、x0o0x_(=読みは「ワカメ」)という呼び名がつけられたが、現在に至るまで、そのスタイルは他とは一線を画すものだ。ドット絵で作られた動画や一筋縄にはいかない難解な歌詞が印象的な楽曲の影響もあったであろう初期活動を経て、現在ではボーカロイド曲や自身で手掛けた楽曲を中心に歌うようになった。

イワシがつちからはえてくるんだ 歌ってみた

 特筆すべきなのは、x0o0x_の音楽には、都市伝説をテーマとした作品が多く、それらは独創的な音使いで表現されることで、ほかに類を見ない独自の存在感を放っていることだ。イラストレーター・游が手掛ける青色のショートカットの少女のイラストは、x0o0x_の作品世界を象徴するビジュアル要素として、作品形成に不可欠な存在になっているのも特徴。ダークでミステリアスな雰囲気は、その作詞作曲能力のほか、x0o0x_という戦略的なアイコンから徹底的に表現されているといえる。また、1月16日には、自身の楽曲の世界観を反映させたノベル『きさらぎ異聞 NoVelize~猿夢・くねくね~』を発売し、音楽以外の表現の場でも活躍の幅を広げた。

 2月28日にリリースされた『人形』のDisc 1『人形 -ニンギョウ』には、x0o0x_の過去曲を多彩なクリエイターがリミックスした7曲を収録。Disc 2『人形 -ヒトガタ』には、昨年リリースした3曲に加え、x0o0x_の新たな音楽性を提示した新曲4曲を含む全7曲が収録されている。

 筆者が今作を聴いたうえで強く感じたのは、Disc 1『人形 -ニンギョウ』では、クリエイターたちの独創的な解釈とx0o0x_の楽曲世界が融合することで、物語を音で蘇らせるかのような、没入感の高い作品へとさらに深みが増していること。一方、Disc 2『人形 -ヒトガタ』は、x0o0x_の自由な発想とセンスが詰まった楽曲が揃い、幻想的なサウンドが非日常へと誘導する。

 目を閉じて聴けば、おおいに夢のなかを漂っているような不思議な感覚を味わえるだろう。本稿では、そんな今作の音の風景を一つひとつ旅していきたいと思う。

「/ / // / /」ゆくえわっと Remix

 2020年2月に動画サイトにも投稿されたこの曲は、2200万回再生超えという驚異的な数字を記録し、x0o0x_の才能が開花した記念碑的な作品といえる。都市伝説「きさらぎ駅」をテーマにしており、ゆくえわっとによる原曲の世界観を踏襲したリミックスで、一層壮大なスケール感と新たな魅力を放つ。荘厳な和の音色と力強いx0o0x_の歌声が、まるで神社仏閣に迷い込んだような雰囲気を醸し出す序盤など、物語に一層の抑揚を与えている印象が強い。

「======」Misumi Remix

 Misumiによるリミックスは、原曲とはまったく異なる印象を与える。最初からMisumi特有のダンサンブルな音像がx0o0x_のボーカルを取り囲むように響き、2番以降、歌声にかけられたエフェクトと相まって、恐怖感が曲全体の雰囲気と一体化。まるで目で見る音楽のように立体的でダウナーな音世界が広がっているのが、今回のリミックスのポイントだろう。楽曲終盤ではメインとなるふたつの歌詞が重なり合い、最後まで飽きさせない。

「******」栗山夕璃 Remix

 原曲よりも抑揚が強調されたx0o0x_のボーカルは、まるで蛇のようにしなやかに、曲線を描くように歌い上げる。ピアノやギター、コロコロと転がるような音の波も、その動きに寄り添い、曲全体が有機的な生命を帯びている。ゆっくりと息を吸い込むようにテンポを落とす三拍子のモチーフでは、サウンド全体が歌声に耳を傾け、その物語に深く入り込もうとしているかのよう。この曲のテーマである都市伝説「くねくね」を栗山夕璃が音世界で鮮やかに表現した一曲といえるだろう。

「ʼʼʼʼʼʼ」全てあなたの所為です。Remix

 都市伝説「赤い部屋」の匂いがするこの曲は、全てあなたの所為です。によるリミックスで、軽快なリズムとメロディに乗せて体を揺らしたくなるようなダンスミュージックへと生まれ変わった。原曲は、素朴なボーカルが青い印象を残す楽曲だったが、全てあなたの所為です。ならではの世界観を鮮やかに表現する独特な電子音と、x0o0x_の機械的な質感を持つケロケロボイスが相性抜群に絡み合う。それはゲームの世界に迷い込んだかのような、唯一無二の魅力を放っている。

「<<<<<<」x髥莏 Remix

 楽曲のモチーフになっているであろう都市伝説「NNN臨時放送」の世界観のリミックスを手掛けたx髥莏が深く理解し、音でその物語を極限まで再現しようとした意図が伝わってくる。たとえば、サビの天使のような高音ボーカルと美しいストリングスは、天に昇る人々を目の当たりにしたような壮大なイメージを描き出す。なかでも楽曲のハイライトといえるのは、x0o0x_の作曲センスが光るラスサビであり、オーケストラと電子音のコントラストだ。原曲の魅力を異なる角度からおおいに引き出すことに成功しているのが興味深い。

「______」羽生まゐご Remix

 繊細な和の音色が原曲のメロディを優しく包み込み、また同時に力強い歌声も‟和”の世界観を色濃く表現。時折、鳴り響く踏切警報音は、都市伝説「猿夢」の物語を彷彿とさせるもので、物語と音楽が渾然一体となってさらなる深みを増していくのがわかる。そして、最後の電車が遠のいていく効果音で、ついさっきまで物語のなかを歩いていた自分が一瞬で夢から覚めたような錯覚に陥るような不思議な感覚に陥る。言うまでもなく、没入感の高い作品といえるだろう。

「......」MARETU Remix

 原曲のゆったりとした雰囲気を打ち砕き、力強いメタル要素を取り入れたアレンジが印象的。特に、力強く響きわたるドラムの存在は際立っており、楽曲に新たな生命を吹き込む役割を果たしている。独特なシンセと相まって、全体を力強く牽引し、終始強烈な印象を与える作品。原曲の繊細なメロディはそのままに、MARETU節といえるメタル要素から力強さが加わることで、歌詞がパワーワードとして生まれ変わり、強く心を打つ。

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