2023年の国内音楽チャートを読み解く 長期的ヒット、タイアップの重要性……今年の傾向も予想
昨年は新たな潮流から意外なものまで多種多様なヒットソングが生まれた。本稿では各社の2023年の年間邦楽チャートを振り返りながらヒット曲を総括しつつ、また2024年の傾向を予測してみたい。
2023年を象徴する一曲と言えば、ひとつはYOASOBI「アイドル」だろう。Spotify、Apple Music、Billboard、LINE MUSIC、YouTubeの年間チャートでは1位、Apple Musicでは2位を記録し、またグローバルチャートでも大きな結果を残す、国境を越えたヒット曲となった。
この大記録は「アイドル」がオープニングテーマとなったアニメ『【推しの子】』の世界中でのヒットの影響も大きい。オントレンドなラップから国産アイドルソングまで、さまざまな要素とジャンルを鮮やかに繋げた「アイドル」は、『【推しの子】』が持つポップさとスリリングさの混沌を見事に表現している。原作先行で楽曲を作るYOASOBIの強みを活かす、完璧で究極の主題歌だ。
タイアップソングは、アーティストの作品への解釈力の高さが原作ファンも含めた支持に繋がり、ヒットに結びつく。その証拠に、米津玄師の「KICK BACK」(『チェンソーマン』オープニングテーマ)やAdoの「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」(映画『ONE PIECE FILM RED』主題歌)など、2022年を代表するアニメタイアップ曲が2023年も年間チャートに入り、2022年10月期に放送されたドラマ『silent』(フジテレビ系)の主題歌だったOfficial髭男dism「Subtitle」は、2023年のApple Musicの年間チャートで1位を記録した。
タイアップソングにおける効果もあってか、今年はベテランバンド勢が新たなヒット曲を生んだのも印象的だ。劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌となったスピッツの「美しい鰭」は、Spotifyで年間8位、BillboardとLINE MUSICで年間10位の記録を打ち立てた。また、映画『THE FIRST SLUM DUNK』のエンディング主題歌となった10-FEETの「第ゼロ感」は、Billboardで年間5位を記録し、昨年の『第74回NHK紅白歌合戦』でも歌唱された。
今年も『【推しの子】』第2期の放送を始め、大ヒットが予感される作品が多く控えている。そんな作品に対する質と精度の高い主題歌は、今年の大ヒットソングになり得る可能性を秘めている。それが新人や勢いのある若手に限らないということも、2023年のスピッツや10-FEETが証明した。すでに安定した支持層を持つバンドがタイアップを機に、さらに新たなリスナーを引き込む可能性は今年も大いにあるだろう。