長谷川カオナシ、田淵智也、Fukase……ソロ活動で見せるバンドと異なる魅力 個性が濃縮された3作品
昨年後半、バンドマンたちのソロプロジェクトが話題を呼んだ。そのどれもが自分が所属するバンドでの制作とはまた異なり、1人だからこそ追求できるアイデアをとことん突き詰めたような作品ばかりである。本稿では、3作のアルバムをピックアップして紹介したい。
長谷川カオナシが創造する独自の音世界
クリープハイプの長谷川カオナシ(Ba)は11月26日に初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』をリリース。全楽曲の作詞作曲を担当し、多彩な演奏陣やアレンジャーを招いて独自の音世界を創造している。長谷川はクリープハイプでもメインボーカルを務めることもあったが、今回のソロワークスでは尾崎世界観(Vo/Gt)の作る楽曲とは異なるどこか妖しげで不思議な質感が存在感を放っていた。そんな彼のソングライティングをより自由に拡張した『お面の向こうは伽藍堂』は、しなやかで、奇妙な雰囲気が漂うポップアルバムに仕上がった。
『みんなのうた』(NHK総合/NHK Eテレ)にも起用された「かくれんぼの達人」を始め、童謡や唱歌のような人懐こくどこかノスタルジックなメロディが特徴的だが、歌われているのは鬱屈とした怒りや皮肉めいた苛立ちが多い。“顔無し”と自身を称していながら、かなり主体性のある楽曲ばかりでとてもユニークにも思えるかもしれない。また楽曲中では、ベースだけでなくピアノやビオラなどさまざまな楽器を操っており、彼のミュージシャンとしての技量を存分に堪能できる。2月から開催の主催ツアー『フシアナサンとロムの板』は各地方公演のサブタイトルに「~東京・府中スレ~」「~愛知・名古屋スレ~」と名付けるなど、インターネットカルチャーへの愛も滲んでいるのも含めて、一連の長谷川カオナシソロワークスだ。趣味的な部分を混沌としたアウトプットにも混ぜ込んだ、遊び心とこだわりに満ちたアーティストとしての一面を見事に魅せている。
田淵智也の多面的な音楽性を詰め込んだソロカバーアルバム
UNISON SQUARE GARDENとTHE KEBABSのベーシストでありソングライターの田淵智也は、12月3日にソロカバーアルバム『田淵智也』をリリースした。自身の40歳を記念してのリリースでもあり、CDのみでリリースされた作品だ。バンドでは普段はコーラスを担当しているが、本作では全曲で新鮮な歌声を響かせている。収録曲は全てカバー曲。自身のルーツである↑THE HIGH-LOWS↓、the pillows、throwcurveをはじめ、同世代バンドであるクリープハイプ、a flood of circle、後輩にあたるパスピエ、ヒトリエ、赤い公園、そして自身が関わるDIALOGUE+、多次元制御機構よだか、そしてUNISON SQUARE GARDENという選曲で、彼の音楽的な多面性を浮かび上がらせる選曲だ。
知られざる名曲を発掘して届けるキュレーターとしての役目、はたまた音楽史の中に自分を位置づける試み。そのような意義深さとともに大好きな歌を歌う純粋な喜びがパッケージされているのがよく伝わる1作だ。カバー元の本人を召喚して再録したトラックの上で歌う、瑞々しい楽しさに満ち溢れている楽曲もある。複層的な文脈や意義を超えた、ミュージックラバーとしての田淵の姿を記録したCDとも言えるだろう。昨年末に行われた『FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2025』では生誕40周年を記念した企画「田淵智也 40th Anniversary special」が展開され、田淵はそこで本作の楽曲を披露。このアルバムはUNISON SQUARE GARDENの捻り方とも、THE KEBABSのあり方とも全く異なる、まっすぐな一面を開示する場となった。
挑発的でトリッキーなFukaseのソロプロジェクト
SEKAI NO OWARIのフロントマン・Fukaseは12月26日に初のソロアルバム『Circusm』をリリース。HIPHOPアルバムというコンセプトを掲げ、全編にわたってラップを披露している。トラックメイクは自分自身のほか、アリアナ・グランデやXGなどを手掛けたShintaro Yasudaや初期のエミネムを手掛けたジェフ・ベースとジェイク・ベース、またSEKAI NO OWARIのメンバーであるNakajinやSaoriも参加している。Fukaseの音楽的なルーツにはHIPHOPがあり、SEKAI NO OWARIでもこれまでラップ調の歌唱は披露してきた。ダークな質感のアルバム『Eye』(2019年)収録の「ANTI-HERO」「Re:set」ではクールなライミングを展開。また『scent of memory』(2021年)では自身のライフヒストリーを織り込んだラップナンバー「Like a scent」を収録するなど、時折そのルーツを垣間見せてきた。2022年のヒット曲「Habit」も押韻が印象的でもあり、SEKAI NO OWARIの一側面としてラップは定着してきたと言えるかもしれない。
しかし、ソロとして披露するラップは今までにないものだ。SEKAI NO OWARIで聴かせる清廉な歌声からは遠いような、かなり挑発的でトリッキーな発声を攻撃的に響かせている。自身のルーツへと遡り、生まれ直したかのような真新しいイメージを提示している印象さえ受けた。歌われるのはSNSをはじめとする現代の情報過多を揶揄する鋭い言葉たち。ポップスターとして長く活躍するFukaseだからこそ書ける当事者性の高いリリックが次々と溢れ出してくる。自分にとってのリアルな感情を吐き出す『Circusm』。その危うさを孕むような表現さえ妥協なくやり切るのが、彼のアーティストとしての揺るぎなさにも思える。嘘偽りなく音楽へと変えることのできる稀有な存在だとあらためて思う。
バンドでいる時の自分とは異なり、根底にあるものを抽出したような濃密さを宿した3作品。彼らがこれからも継続的にソロ作品をリリースするかは定かではないが、次なる一手が楽しみになるものばかりだったのは間違いない。こうした作品を味わえるのもバンドを追う喜びの1つと言えるだろう。


























