MisiiN「コンプレックスはネガティブなものではない」 『LoVe cOmpLEx』で見せた自己表現の深化

MisiiN、自己表現とコンプレックス

 11月1日、Misii(ミシー)とnagoho(ナゴホ)からなるデュオ・MisiiNの2ndアルバム『LoVe cOmpLEx』がリリースされた。本作の発売に際し、彼女らは11月4日から全国ツアーを開催中である。

MisiiN 2nd album "LoVe cOmpLEx" teaser

 2022年11月にデビューアルバム『be the you』をリリースしたが、ふたりのアーティストとしてのスケールは今日も拡大し続けている。それほどに『LoVe cOmpLEx』の内容は充実している。前作の内省に加え、本作では他者の存在がより明確になり、「ライブ」を意識した楽曲が多く収録された。「be the you(自分であれ)」というメッセージは通底しているものの、本作は“愛の複雑性”でもって豊かかつ鋭い趣を持っている。

 たとえば「MY AGE IS FIRE」や「BABABADCYCLE」などは緩急のある4つ打ちでもって彼女らの世界観を推進させ、「buy me love」はシネマティックなビートと生々しいリリックでもって絶望や孤独に抗おうとしている。

 さらにnagohoのソロ時代の楽曲である「tegami」をノスタルジックなニュアンスで再解釈し、よりロマンチックな内容に仕上げた。

 前作の『be the you』を知る者として高々に喧伝するが、今作『LoVe cOmpLEx』は全編通して、彼女たちが今できることをすべてやっている。そしてそれらの複雑性は、我々にとっても必要なものかもしれない。

 今回のインタビューでは、そんな彼女らの新しき「be the you」=自己表現についてじっくり聞いた。(Yuki Kawasaki)

“コンプレックス”をネガティブなものとして捉えていない

MisiiN
MisiiN(左からnagoho、Misii)

ーー先行シングル含め、アルバムを拝聴しました。これまでの作品よりもスケールアップというか、できることが段違いに増えている印象を受けました。この数カ月に一体何があったのかと思うほどです(笑)。

nagoho:一番影響として大きいのは、自分たち以外のアーティストが作品に関わってくださるようになった点ですね。そこで視野を広げてもらった実感があります。自分たちが表現したいことにそれほど変化はないと思うんですけど、技術的な部分は確かに補完していただいたと思います。

ーーたとえば「tegami」のサンプリングの仕方や音の曇らせ方など、楽曲単位で考えてもそれは顕著だと感じます。この曲はかつてnagohoさんがソロ時代に作られたものですが、このタイミングでMisiiNとしてリリースしたのは解像度を上げられると考えたからですか?

Misii:それもあるんですが、アルバムのテーマ性によるところが大きいですね。実は「tegami」をMisiiNの楽曲としてリリースすることに関して少し揉めたんです(笑)。nagoho時代の曲をMisiiNで表現することにハードルを感じていたというか。それでもnagohoが、どうしても『LoVe cOmpLEx』の中にこの曲を入れたいというので、その点についてはめちゃくちゃ話し合いましたね。

nagoho:私から家族に対して歌った曲は、今のところこれ以上のものは生まれないだろうという実感があるんです。そして『LoVe cOmpLEx』に入れないと、恐らくこの先もMisiiNの楽曲としては発表できないかもしれないと思っていまして。私のわがままなんですけど、「tegami」にはそういう経緯があってアルバムに収録させてもらいました。でもやっぱり、Misiiが入ってくれたことで原曲とは大きく変わったと感じますね。ソロ時代の「tegami」は“嘆き”だったんですけど、今は“感謝”の側面が大きくなっています。言葉の矢印の向きが変わったというか、成長前と後みたいな感覚がありますね。ソロバージョンの「tegami」はコンプレックスの渦中にいたというか。

ーー『LoVe cOmpLEx』はコンプレックスの“お焚き上げ”みたいな側面もあるんですかね。

nagoho:いや、そういうわけではないんですけど(笑)。でも確かにそれができるアルバムでもあると思います。私たちはそもそも“コンプレックス”をネガティブなものとして捉えていないんですよ。それを超えた先に「be the you」があるというか。

Misii:そういうコンセプトはこのアルバムの制作前から2人で共有していたことでもあります。

ーー2022年にリリースされたアルバムはまさしく「be the you(自分であれ)」というタイトルだったわけですが、そのテーマ性は今作にも引き継がれていると。

nagoho:そうですね。そのメッセージ性は変わらず押し出していきたいです。ただ、活動を続けてゆく上で移り変わることもあると思うので、そのへんは意識したいなと。

Misii:それは自分たちがYouTubeの配信などでリスナーとふれあう中で分かったことでもありますね。MisiiNの曲をさまざまな人に聴いてもらううちに、分かることもあるというか。

nagoho:今の自分たちだから伝えられるメッセージがあると思いつつ、「言い過ぎない」ことも大事な気がするんです。X(旧Twitter)で目にしたコメントなんですが、ある方が「MisiiNの楽曲紹介はややこしくてよく分からん」と仰っていて(笑)。

Misii:自覚はとてもあるので……(笑)、私たちとしてもすごく重要な指摘だと思っています。

nagoho:曲を純粋に楽しみたいリスナーからすると、私たちの説明が邪魔になる可能性があるんですよね。私たちが言い過ぎることによって、楽しみの妨げになってしまうのは本意ではないので。

Misii:順番が大事だよね。

nagoho:そう。楽曲を深掘りしたい人にはライブのMCとかで触れてもらったり、YouTubeの解説も最適な形に変えたいと思っています。

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