公私に渡る強固なパートナー関係が生み出す音楽の力 MisiiN、活動指針に“be the you”を掲げる上での覚悟

MisiiN、活動への覚悟

 2022年5月にMisii(ミシー)とnagoho(ナゴホ)のふたりによって結成されたアーティストユニット、MisiiN(ミシエヌ)。公私ともに“saikyoパートナーズ(最強パートナーズ)”である彼女らの出会いは、表参道のNOSE ART GARAGEに端を発する。

 東京のほか、富山にも拠点を置く彼女らは、様々な領域からインスピレーションを得てきた。映画や演劇、語学や写真、古今東西のカルチャーがMisiiNのフィルターを通過し、彼女たちの音楽へと落とし込まれる。2022年11月にリリースされた初のフルアルバム『be the you』は、目まぐるしく揺れ動く社会にあって、我々の背中を優しく押す。「be the you(あんたであれよ!)」や「革命歌」といったパワフルなフレーズを含みつつ、そのスタンスは限りなくピースフルだ。6月7日にリリースされたシングル「fall」は、現代社会が内包する多様なアイデンティティをポエトリーラップとエモーショナルな歌声で全肯定している。

MisiiN - fall (Official Music Video)

 彼女たちの音楽はそれぞれの作品ごとに強いテーマ性を持つが、随所で楽曲同士の繋がりも感じられる。たとえば「fall」の中で“be the you”というフレーズが使われており、以前自分たちが出した問いにみずから答えているような印象も受ける。

 “叫び”とも“語り”とも言える「革命歌」のインスピレーションは、一体どこにあるのか。今回のインタビューでは、MisiiNの現在地とストイックな作家性が見えてきた。(Yuki Kawasaki)

MisiiN結成に至る二人の出会い

ーーまずはNOSE ART GARAGEでの出会いからお聞きしたいです。

nagoho:当初、私はギャラリーキュレーターとしてNOSE ART GARAGEに所属していました。ライブの企画やブッキング、展示のディレクションなどが主な仕事でしたね。それが2020年ごろです。で、どこかに良いアーティストはいないかと探していたときに、当時ソロで活動していたMisiiに出会いました。初めてパフォーマンスを見たときに「めっちゃいいなぁ」と思って、それがきっかけで一緒にライブをやるようになりました。Misiiのソロワークに「Golden Orange」と「君にふれて、」っていう曲があるんですけど、私はその2曲がすごく好きで。ある日それを聴きながら改札を出たんですけど、そのときの夕陽がすごく綺麗で思わず涙……っていう(笑)。

ーーソロ時代のMisiiさんの楽曲も拝聴しました。SENSAのインタビューを拝読しまして、そこでは重要なインスピレーション源としてMiley CyrusとONE OK ROCKのTakaの名前が挙がっておりましたけども、ソロワークスも含め、現在の音楽スタイルとは距離があるように感じます。

Misii:2人のことは人間として尊敬している上で、テクニカルな部分でも影響を受けています。ただ、今は違う一面も見せておきたくて。私も割と声が出るほうで、張り上げる歌い方が得意なんですけど、やっぱり色んな表現が出来たほうがいいなと。ソロ名義の作品を自分の部屋でレコーディングしているときに、繊細なメロディの味も見つけて。そこから今のスタイルになりました。その繊細さをより具体的に表現できるようになったのは、MisiiNを組んでからですね。

nagoho:ソロ時代は割と張り上げてたもんね。具体的にはMisii名義の『波炎』(2021年12月)というアルバムと『be the you』あたりから、今の歌い方にシフトしていったような気がします。MisiiNを結成する前に、2人で富山の瑞泉寺のライブに出演したんですけど、そのときのMisiiのパフォーマンスが衝撃的で。ステージ上でこんな爆発する人いるんだって思ったんです。自分も演劇をやっていた手前、そこに対する自負や責任感みたいなものはあったんですが、瑞泉寺のパフォーマンスを見て、もう完全にセンターポジションを彼女に任せようと。

MisiiN - be the you (lyric video)

ーーMisiiNの楽曲はそれぞれ作品ごとにテーマ性があるように感じるんですが、それがアルバムやEPを越えて通底しているとも思います。たとえば「fall」では〈be the you〉が歌詞の中でフレーズとして登場しますし、以前出した問いにみずから答えているような印象も受けました。

nagoho:「fall」は「alone alone, hello?」のアンサーソングみたいだねって話はしてました。実はこの曲、最初に作ったのは2020年だったんです。そのときは私がパートナーでもあるMisiiに救われていた時期だったので、矢印が2人の間で完結していました。それを改めてMisiiNの楽曲としてリリースしようとなったときに、矢印をリスナーやファンの方に向けたいと思うようになりました。歌詞を書き直したり、未来形で言っていた部分を現在で言い切った部分があります。そうやって今の形に修正していくうちに、他の曲と繋がりが出てきたのかもしれません。

ーー2020年というと、先ほどのお話ではまさにお二人が出会った年ですよね。

nagoho:そうです。2020年の5月にMisiiと出会って、その年の12月にパートナーとして生活し始めました。先ほどお話した瑞泉寺のライブが10月にあったんですけど、センターを任せていいと思えたときに色々なものから解放されたんです。今までプライド持っていた自分を、良い意味で殺せたというか。“魂のベスポジ” を見つけたというか、自分がいるべき場所で生きていていいんだって思えたんです。「fall」はそのあとにポロっと出てきました。

MisiiN "fall" (Behind The Scenes)

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