黒子首の鳴らす“ポップス”が幅広い世代に刺さる理由 メジャー2ndアルバム発売を機に解説

黒子首の“ポップス”支持される理由

 黒子首がメジャー2ndフルアルバム『dig saw』をリリースした。

 黒子首は、堀胃あげは(Vo/Gt)、みと(Ba)、田中そい光(Dr)の3人組バンド。元々アコースティックユニットを組んでいた堀胃が、表現の広がりを求めて黒子首を結成したのが始まりだ。現メンバー3人は同じ音楽専門学校を卒業している。インディーズ時代はライブハウスでの活動や路上ライブを重ね、口コミやSNSなどで評判を広げてきた。2021年7月リリースの1stアルバムで初の全国流通作品『骨格』は、早耳の邦楽ロックリスナーの間で話題に。2022年2月にデジタルシングル「やさしい怪物 feat. 泣き虫」でトイズファクトリーよりメジャーデビューすると、同年リリースのデジタルEP『ぼやぁ〜じゅ』の収録曲が全国各地のラジオ局でパワープレイを獲得。さらに、メジャー1stアルバム『ペンシルロケット』は、新人とは思えないクオリティと評価され、『第15回CDショップ大賞2023』で入賞。日本テレビ系音楽番組『バズリズム02』の新春恒例企画「これがバズるぞ2023」にランクインするなど、注目のニューカマーとしてメディアで取り上げられる機会も増えていった。

黒子首 / Champon -OFFICIAL MUSIC VIDEO-
黒子首 / やさしい怪物 feat. 泣き虫☔︎ -OFFICIAL MUSIC VIDEO-
黒子首 / おぼえたて -OFFICIAL MUSIC VIDEO-

 私が黒子首を知ったのは『骨格』リリースの少し前のタイミングで、『骨格』以降のリリースはリアルタイムで追っているが、作品数を重ねるごとにポテンシャルを開花させていくバンドの成長速度に毎度驚かされている。初期のきのこ帝国、あるいは羊文学の系譜を継ぐバンドかと思いきや、実はthe brilliant green、あるいはMy Little Loverだった――と言えば、バンドに対する印象の変化が伝わるだろうか。私が黒子首に興味を持ったきっかけは、堀胃のハスキーボイスとソングライティング、憂いを帯びた楽曲群だったが、バンドの世界は一色に留まることなく、曲調、サウンドのバリエーションが広がっていった。メロディはよりキャッチーになり、時にはストリングスやシンセサイザーの音色によって楽曲が彩られ、全体的にポップな作風に。そんななかで浮き彫りになったのは、新しい知識や技術を身につけてはトライするみと&田中のプレイヤーとしての感受性のみずみずしさや、曲調に合わせて声色やニュアンスを変えるボーカリスト・堀胃の表現力であり、堀胃のフォーク/ブルースシンガー的な佇まいや、歌詞における毒やユーモアが失われていない点も好感を持てた。

 メンバーは、ポップスをやっていこうという意思が明確にあると各所のインタビューで語っている。その上で、黒子首は2020年代のバンドであるにも関わらず、90年代的なアウトプットになっているのが面白い。メンバーの音楽的ルーツや嗜好はバラバラで、田中はAqua TimezやMr.ChildrenをはじめとしたJ-POP、みとはオーケストラや歌劇、R&Bが好きだそうだが、映画『スワロウテイル』をルーツに持つ堀胃の嗜好(※1)が特に色濃く反映されているのか。それとも、チームのスタッフやエンジニア、サポートミュージシャンら黒子首を囲む人々との化学反応から生まれたものがあるのか。おそらくいくつかの要因が絡んでいるのだろうが、黒子首の鳴らすポップスはどこか懐かしく、温かみがあり、10~20代の若者だけではなく、メンバーよりも上の世代のリスナーのこともライブハウスに呼んでいる。

黒子首

 メジャー2ndフルアルバム『dig saw』は、そんな黒子首の魅力が凝縮された作品だ。どの時代の黒子首が好きな人にも刺さるアルバムであり、これから黒子首を知っていく人にもうってつけのアルバムと言っていい。TVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』エンディング主題歌として現在オンエア中の「リップシンク」や、ドラマ『DIY!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』のオープニング主題歌で今年7月に配信リリースされた「カナヅチ」を含む10曲入り。先日インタビューをさせてもらったが、メンバーいわく、バンド自身の強みを改めて見つめ直しながら制作したアルバムで、曲ごとに焦点を絞って表現したとのこと。そのため、手遊び歌をモチーフとした「Guu」のように、以前から黒子首が得意としている“ダーク童謡”的な曲もあるし、過去作でも誠実なバラードを収録してきた黒子首らしく、今作にも「faraway eyes」というバラードを収録している。また、“どこか懐かしく温かい黒子首ポップス”としてのアウトプットが多様化した印象。例えば、堀胃の歌唱やコーラスのハーモニーに個人的には原 由子の面影を見た「タイムレスマシン」はその一つだろうし、歌謡曲調のギターリフから始まる「無問題」や昭和のアイドルポップのように爽やかな「言わせない」に90年代らしさを見出し、「なるほど、黒子首はこういう曲も似合うのか」と納得する人もいるだろう。さらに、ピアノリフとワウギターを軸に展開しつつ、ビートはシンプルにまとめた「ばっどどりぃむ純喫茶」、ジャジーなアプローチの中にヒップホップ的なリズム感を取り入れた「Odd Eye」など新鮮なトライも見受けられ、聴いていて飽きの来ない作品だ。堀胃のボーカルは相変わらずの七変化ぶりで、特有のワードセンスも健在。リード曲の「リップシンク」は3人の鳴らす楽器の音を中心とした、チャーミングなギターロックナンバーに仕上がっていて、3人組バンドとしての姿が改めて打ち出されている。

黒子首 / カナヅチ -OFFICIAL MUSIC VIDEO-
黒子首 / リップシンク -OFFICIAL MUSIC VIDEO- from New Album "dig saw"

 総じて、黒子首の魅力をメンバー自身が改めて認識し、誇りを持って提示するようなテンションが気持ちいいアルバムだ。今作を聴いて思ったのは、やはり黒子首は、様々な可能性を内包したバンドなのだということ。アルバムのラストの曲「もぐら」とは、自分たちの音楽をより多くの人に届けようと試行錯誤しながら過ごしたバンドの自画像であり、ここで歌われている覚悟の言葉は、音楽に臨むバンド自身の言葉として解釈していいだろう。〈眩しい光の中で生き抜くことを/この手で選んでみよう〉という力強い意志とともに、黒子首の音楽の旅は続いていく。

※1:https://natalie.mu/music/pp/hockrockb

黒子首 アルバム『dig saw』
黒子首 アルバム『dig saw』

■リリース情報
黒子首 ニューアルバム『dig saw』
2023年10月25日(水)リリース
CD購入:https://TF.lnk.to/hkrcb_Major2ndAL

初回生産限定盤[CD+グッズ]
TFCC-81045/¥4,000(税込)
通常盤[CD]
TFCC-81046/¥3,000(税込)

<収録曲>
01. リップシンク ※TVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』エンディング主題歌
02. ばっどどりぃむ純喫茶
03. 無問題
04. 言わせない
05. Guu
06. タイムレスマシン
07. faraway eyes
08. Odd Eye
09. カナヅチ ※ドラマ『DIY!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』オープニング主題歌
10. もぐら

<ショップ別オリジナル特典>
タワーレコード全店(オンライン含む/一部店舗除く):缶バッジ
HMV全店(HMV&BOOKS online含む/一部店舗除く):B4両面カレンダー(2024)
全国アニメイト(通販含む):B5クリアファイル
楽天ブックス:ポストカード
Amazon.co.jp:メガジャケ
トイズストア:ステッカー

■ワンマンライブ情報
黒子首ワンマンライブ
2023年11月26日(日)大阪府 Music Club JANUS
OPEN16:30/START17:00
チケット料金 スタンディング4,000円(税込、入場整理番号付き、別途ドリンク代要)

■その他ライブ情報
『凩』
2023年11月2日(木)東京都 Spotify O-nest
<出演>
あたらよ/黒子首

『小林私主催「長い一日」』
2023年12月15日(金)東京都 渋谷WWW
<ゲスト>
黒子首 / レトロリロン / 他

■関連リンク
黒子首オフィシャルサイト:https://www.hockrockb.black/
アニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』公式サイト:https://kamonohashiron.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる