「生成AIと音楽の著作権問題」をJASRACに聞く クリエイターの創作環境を守るために必要なこと

 現在リアルサウンドでは、音楽・映画・テック・ブックの4サイトを横断した特集企画「生成AIはカルチャーをどう変えるか?」を展開中だ。未知なる可能性を秘めた新技術に向けられる熱い眼差しと、各業界のエコシステムに影響を及ぼすであろう脅威へ向けられる懐疑的な眼差し。カルチャーの分野においては特に、生成AIに対して期待と不安が入り混じった見方が存在している。

 生成AIの革新性は、人間が様々な創作をする上で用いてきた「ツール」に「学習し生み出す機能」が加わったことにある。さまざまな学習を重ねた生成AIと正確なプロンプト(指示文)があれば、無限に生成物を生み出すことができるのだ。これにより、クリエイティビティが強化されたり、利便性/生産性が向上する一方、使い方によっては創作を生業とするクリエイターたちの機会損失や、既存の著作物への権利侵害を生む恐れがあるとして、日本国内の音楽業界において慎重な議論が進められている。

 音楽の著作権管理事業、著作権思想の普及や音楽文化の振興に取り組む日本音楽著作権協会(以下、JASRAC)は、生成AIに対してどのようなスタンスをとっているのか。2023年7月24日に発表した「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」(※1)の内容をもとに現時点での見解を示してもらった。

 同協会が生成AIと著作権についての議論を始めたのは、画像生成AIが話題となった2022年の夏以降。まずは「音楽クリエイターの声を明らかにすること」にポイントを置いたシンポジウム『AI生成楽曲と著作権』を企画し、今年3月に開催。さらに、ChatGPTの登場が社会的に大きな注目を集めたことを受け、4月以降、JASRAC正会員の作家、音楽出版社、有識者などで構成する理事会において議論を重ね、7月の理事会で決議、これに基づき発表したものが「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」である。

『AI生成楽曲と著作権』シンポジウムの模様

 この中でもっとも注目すべきは《2.フリーライドが容認されるとすればフェアではない》の項目だ。ここには「著作権法第30条の4の規定によって、営利目的の生成AI開発に伴う著作物利用についてまで原則として自由に行うことが認められるとすれば、多くのクリエイターの努力と才能と労力へのフリーライド(ただ乗り)を容認するものにほかならず、フェアではない。そのようなAI開発事業者によるフリーライドが日本においては容認されるとする見解が散見されるため、大きな懸念を抱かざるを得ない」と記されている。

 「著作権法第30条の4」では、AIによる機械学習を含めた情報解析において、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、著作物を無許諾で利用できることが定められている。リアルサウンドテックで取材した柿沼太一弁護士も、生成AIによるコンテンツの「学習」と「生成(利用)」を区別して考えることを前提として、現時点では生成AIが著作物を用いて「学習」することについては、日本は他国に比べても規制が緩やかであると説明していた(※2)。一方でJASRACは、現行の音楽の著作権のように営利目的の利用に関する対価についての提言を行っている。

「生成AIが人間の生み出した著作物を人間とは桁違いの規模・スピードで際限なく自由に学習し、クリエイターへの何らの対価の還元もないまま、結果として市場にAI生成物が大量に流通することになれば、創造のサイクルとの調和を欠き、フェアではないと危機感を持っています。生成(利用)の段階で類似性・依拠性が認められれば著作権侵害に当たるとしても、生成AIの普及によって、人間の創作作業とは比べるべくもないハイペースで生成物が「量産」されれば、個々のクリエイターがその中から類似性の認められるものを探知し、依拠性を立証することは極めて難しいと言わざるを得ません」

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