TOWA TEIは音楽生成AIとどう向き合う? ガシャポン的要素が増えた先にある“選択眼”の重要性

TOWA TEIは音楽生成AIとどう向き合う?

 Daft Punkが2021年に解散したが、その要因のひとつにはAIがあるという。ロボットをモチーフに現実とフィクションの境目を往来するようなプロジェクトを進めていくうちに、未来がやってきた。人間とマシーンの関係を脅かすような昨今のAIの発展に、彼らは恐怖心を抱くようになった。(※1)

 事実、音楽シーンに限らず、昨今は様々な領域でAIが猛威を振るっている。AIアートはイラストレーター界隈で広く話題を呼び、ChatGPT以外にも文章を生成するAIサービスは複数存在する。筆者の知り合いのラジオマンいわく、「ラジオのジングル程度ならばAIが作れるかも」とのことだ。

 この数年の間に加速度的に成長するAIだが、アーティストはいかにしてその「知能」と対峙しているのか。本稿では、1994年の『FUTURE LISTENING!』以降様々なサウンドを探求してきたTOWA TEI(テイ・トウワ)が、これからのAIの可能性について語った。「今ここ」にない音楽を作り続ける御大は、選択と偶然、そして予期せぬ出会いに期待する。(Yuki Kawasaki)

未来の音楽家の突破口はビッグデータの外側にある音楽

ーーこれまでのTOWA TEI作品を考えると、Sci-Fi(サイエンスフィクション)な要素が局所的に見受けられます。まずはTEIさんのテクノロジー観についてお伺いしたいです。

TOWA TEI(以下、TEI):子供の頃は変身願望や超能力、宇宙人などに興味がありました。世代的に手塚(治虫)作品に触れる機会も多々あったので、周りにもそういったものに惹かれる子は多かったですね。そして僕が6歳の頃、父親の仕事の関係で1970年に開催された『大阪万博』(日本万国博覧会)に行きました。そのときに動く歩道や太陽の塔を目の当たりにしたわけですけど、それこそが僕のテクノ元年である気がします。オートメーションや不労所得、自分がいかに汗を流さずに労働賃金を得るかという発想。それは今の僕の生活にも大いに関わっていて、例えばクラウドサービスを介してTOWA TEIの楽曲が予期せぬところで利用されるなど、僕が直接関与していないところから収入を得ることがあるんです。僕の楽曲はインストものも多いので、映画の劇伴やテレビ番組の音楽などで二次使用されることも多くて。それらはまさしく不労所得だなと。ちなみに僕が一番好きな四文字熟語がそれです(笑)。だから結論から言うと、僕はAIに関してはすごく期待しています。

ーーメンバーとして参加されているMETAFIVEを含め、TEIさんは度々マネキンとして映像作品やライブに出演してらっしゃいますが、そういうアイロニーが……。最近ではAIの影響を受けるような出来事はありましたか?

TEI:これは半分推測なんですけど、とある外資系の音楽企業から僕の楽曲に関する打診がありまして。昨年末の話なんですが、TOWA TEI名義の音源を全部買いたいとのことなんですね。最近ではボブ・ディランやレッチリ(Red Hot Chili Peppers)なんかがその手の話題でニュースになってましたが、同じような話が僕のところにも来たんです。しかもオファーをしてきた企業が複数あって、それぞれ若干の違いはあるものの、概して「TOWA TEI名義のおよそ150曲の権利を譲渡してくれ」というものでした。すべてお断りしたんですが、最も熱心だった会社には「10年後にもう一度交渉しにきてくれ」と伝えました。僕のところにこの話がきた理由を考えてみたんですが、まさにAIが関係しているのかなと。というのも、僕がこれまで作ってきた楽曲ってジャンルで回収するのが難しいんですよね。それゆえにAIがそこから規則性を見出し、再現しにくいんじゃないかと思い至ったんです。便宜上、自分の音楽は「テクノ」と呼んでいますが……。

"TECHNOVA" TOWA TEI WITH BEBEL GILBERTO

ーーすごく重要な指摘だと思います。確かに、TEIさんの楽曲って「テクノ」で定義できないものが多いですよね。ベン・クロックやマルセル・デットマンがクラブでかけるような曲がテクノだとすると、確かに『FUTURE LISTENING!』(1994年)も『LP』(2021年)もそこだけに収まらないジャンル的な広がりがあります。

TEI:1940年代~2000年代の様々なジャンルのレコードが家にあって、それらをサンプリングしてできたのが僕の音楽なんです。そういったアーカイブの中からテクスチャーを組み合わせることを「フューチャーリスニング」と言って、今日までぼんやり続けているんですけど。で、今のAIが生成する音楽を聴いてみたところ、すごく気持ち悪いんですね。僕が使った音楽生成AIでは、「ヒップホップ」や「R&B」といったジャンル、そして「明るい」や「暗い」というようなニュアンスがプリセットとして設定されていて、それらをもとにサウンドが作られます。まぁ「気持ち悪い」と言ったものの、将来的には何かに使えるかもしれないのでMP3には保存しましたけど。話を戻すと、そういった生成過程を考えたときに、今のAIの課題は僕みたいな音楽家の作品をいかにして作ることなのかなと。音符にならない部分、もっと言うとシンセサイザーでも合成できないサウンド。オーソドックスなハウスやテクノではない音楽を表現するのは、10年や20年では難しい実感があります。言い換えれば、そこに僕ら人間の突破口があるのかもしれないですね。ビッグデータの外側にある音楽というか。

ーーSci-Fiなニュアンスを孕みながらも、TEIさんの音楽には人間的なグラデーションがありますよね。ボーカルひとつ取っても、Daft PunkやWarp Recordsの面々は意図して人工的な声に加工・サンプリングしていましたが、TEIさんの「HAPPY」などを聴くとそうではない。

TEI:40年代なんかは、そもそもコンピューターを使った音楽ってまだ極めて少なかったですから。RCAの研究所が作った合成音声のレポートとかはありますけど、そういったアイデアを実現する方法が一般には出回ってなかったんですね。だからサンプリング元にそもそもそういう要素がなかったのがひとつ大きなポイントです。で、僕自身もロボット的なニュアンスを自分の作品に入れたくなかった。元々コンピューターを使わずには音楽を作れなかった人間なので、わざわざ自分から人工的なテクスチャーを求めなくてもいいよなと。それから、「ロボット」が未来的なイメージとして通用するのって時期が限られると思ったんですよ。ある時点から聴いたら、恐らくそれは古臭く感じられてしまう。もっと未来になったときに、「古い未来像」として懐かしまれちゃうような気がしたので、僕はちょっと敬遠してました。

 あとひとつ今話してて思ったのは、自分の中にセオリーがないんですよね。AIは一生懸命ビッグデータの中からラーニングしてると思うんですが、僕はむしろ反対のことをしています。ある時点から音楽の作り方を覚えないように努めているんです。うまくならないようにっていうか。手練れになってくると、どうしても得意な方向に流れてしまいますから。それが今は功を奏しているのかな。だから権利を買いたいと名乗り出る人がいるのかも。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる