TOWA TEIは音楽生成AIとどう向き合う? ガシャポン的要素が増えた先にある“選択眼”の重要性
AIとアーティストの付き合い方はどうなる?
ーー対AI的な考えにおいては、ルールから逸脱することが重要なのでしょうか?
TEI:ある意味ではそう思いますね。10年前からレクサスのフラッグシップストアで選曲の仕事を仲間のDJたちとやってるんですけど、EDMとAIっぽいセレクトはやめようって決まりがあって。10年前はちょうどEDM全盛期だったのでその名残でもあるんですが、後者はまさしくAI的なルールに乗らないようにしようという試みから来ています。今は「こういう曲が好きな人はこういう曲も好きですよ」と購買データが教えてくれるんですが、それらが完全に間違いではないものの、僕らからすると半分以上は不足していて。データとして培われた部分で分かることは、今はまだ「マス」だけなんですよね。そこからこぼれ落ちるものにまで及んでいない印象があって、僕らはそこにフォーカスしたい。40’sの曲がかかったら次にかかるのも40’sっていうのがAIの選曲だと思うんですが、僕が選曲していればそのタイミングで未発表のTOWA TEIの音源をかけられるんですよ。セレクターとしてもプロデューサーとしても、そういう振り幅を常に持つようにはしています。だからその点で考えると、もしかしたら「それらしい選曲をする」クラブDJがAIになってしまう可能性はありそう。
ーーそういった中で、TEIさんがAIに期待されていることはどういった部分にあるのでしょうか?
TEI:アーティストのサポーター的役割に期待しています。僕みたいにひとりで作業している人間にとっては、作曲中に補助してくれたり意見をくれる存在は重要なんですよ。それは先ほど言ったような「ハウスかドラムンベースか」みたいなプリセットではなくて、もっと詳細な創作過程の話で。たとえばコードの制作で、「メジャーの7thに倍音で9thのノイズが乗ってますよ」みたいな指摘をしてくれるとか。そうなると、僕も今より楽しくなるだろうな。独り言をぶつぶつ呟きながら曲を作ることになりそうだから、はたから見ると不気味に映るかもしれないけど(笑)。まぁでもそこまでは近い将来到達する気がしてます。そうなったときに、僕がやるべきことは「選ぶ」ことになってくるんじゃないかな。AIがドラムのパターンAとパターンBを生成して、その中から僕がテクスチャーを組み合わせていくっていう。僕には思いつかない、けれども僕が面白いと感じられるアイデアをAIが出してくれるなら採用したいです。そう考えると、音楽制作がガシャポンみたいになっていきそうですね。
ーー“ガシャポン”と聞いて私はSweet Robots Against The Machineの「DAKITIME」を思い出しました。あの曲のAIが作ったリリックMVが公開されていましたが、変なタイミングで単語や文章が分裂する瞬間があったんですよね。その“非予定調和性”みたいな瞬間が面白かったです。
TEI:僕はそのような諸々をひっくるめて「エキゾ」と呼んでいるんです。エキゾチック(exotic)のエキゾ。少し前だと外国へ行ったときに、たまたま入った和食屋さんのメニューに妙なふりがなが振られてあったりしたんですよね。インターネットの普及でだいぶそういうのは減ってきましたが、僕もそこから生じる違和感に惹かれることはあります。『孤独のグルメ』の久住昌之さんはTwitter(X)でよくそういった投稿をされてますけど、すごく面白いんですよね。
音楽を語る上でもそういう違和感は重要で、多くの人の視聴体験で考えても引っ掛かりがないと音楽って受容されないと思うんですよ。今はGarageBandなんかを使えば誰でも曲を作れますけど、素人が作ると大体その引っ掛かりがない。ガシャポンで言うところのランダム性や偶然性が生じた作品の方が僕は好きですね。それらを含んで「選ぶ」って感じです。
ーーひとあし先に『TOUCH』を拝聴したんですけれども、そもそもTEIさんの作品は『FUTURE LISTENING!』以降多くの場面で選択の連続だったのではという気がしてきました。『FUTURE LISTENING!』ではブラジル音楽が、『TOUCH』ではインドネシアがイメージとして採用されていて、まさしく選んだ結果が作品になったのかなと。
TEI:実を言うと、インドネシアは自分の中ではそこまで大きく意識したわけじゃなかったんです。気がつくと〈TERIMA KASIH〉で始まって、奇しくも僕が意図していないところから出てきた要素でした。ゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)が入れてくれたガムランの音色とか、制作していくうちに昭和期よりも前のアジアのイメージが出てきましたね。5曲目のタイトルには「手癖」(「HAND HABBIT」)とつけたんですけど、そういうアジアのニュアンスはずっと自分の中にあったんです。それゆえに作りやすくて、このタイトルにしました。流行病の間に『TOUCH』をあわせて3枚作ったんですけど、確かにこれまでにないぐらい様々な音楽を聴いたんです。ナイジェリアの音楽ばかり聴いていた翌週にはエチオピアばかりになり、そのさらに翌週はインドネシアといった具合に……。この3年間、そういう聴き方を繰り返してましたね。レコードを自分なりにたくさん聴いたっていう自負はあって、それを吐き出してできたのが自分の作品だったりするんです。だからそういう意味では、確かに選んだ結果なのかもしれない。『FUTURE LISTENING!』を出した20世紀の頃は、自分がそのときハマっているもの、ボサノヴァだったりドラムンベースだったりに対して直情的に向き合っていたところがあるんですが、21世紀に入ってからはそういうスタンスが希薄になっていったんですよね。ソサエティから離れて、ノンカテゴリーで良いんじゃないかって。そこからますますラベリングしづらい音楽を作ってる気がします。
少なくとも、今の僕が作っているのはもうクラブミュージックではないかな。ダンスミュージックではあると思ってるんですけど、クラブミュージックを作り続けると、ソサエティにも居続けなきゃいけないから、どこかで忖度しなければいけない場面が出てくるんですよね。……まぁ、『TOUCH』のリリースパーティはクラブでやるんですけど(笑)。
ーー8年ぐらい前に、TEIさんがX(旧Twitter)で「ダンスミュージックとクラブミュージックは違う」という話をされていたのを思い出しました。当時はEDM全盛期だったこともあって、コマーシャルとクリエイティブの間で悩んでいた私にとって指針になる言葉でした。
TEI:大事なことかもね。ちなみに『TOUCH』と同時に出る『ZOUNDTRACKS』というアルバムは、ダンスミュージックですらないです。スケッチ集とか、現代版ミュージックライブラリーみたいな感覚で作った作品で、これを使いこなせる音効さんが現れてほしいと思っています。何かのきっかけになるように、「観光リゾート」や「女神」といったタイトルをつけました。僕が思いもよらない使われ方をしてほしい。『FUTURE LISTENING!』の頃から僕はそういうものを作り続けてるんです。途方もない過去を集めて、それを聴きまくって、「ここ」にないものを生み出すっていう。
※1:https://futurism.com/the-byte/daft-punk-broke-up-ai
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■リリース情報
『ZOUNDTRACKS』
仕様:CDアルバム
品番:MBCD-2311
価格:¥3,520(税込)
『TOUCH』
仕様:CDアルバム/アナログ・緑盤
品番:COCB-54360/COJA-9480
価格:¥4,400(税込)
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